
2026年5月22日、Global Science Scholars(GSS)Programの一環として、Innovation Program#2「Fireside Chat with Founders」を開催しました。
会場となったのは、今年4月に横浜・関内にできたSS-F Lighthouse Labと、カリフォルニア大学バークレー校のインキュベーション拠点であるBakar Labs。Bakar Labsの協力のもと、日米をオンラインで結んだハイブリッド形式で実施され、GSS Cohort 2025に採択された全10名のフェローが参加しました。それぞれの拠点でフェロー同士が対面で交流する機会となり、研究分野や所属機関を超えた新たなつながりが生まれました。
研究者、起業家、投資家、研究支援者。普段は異なるフィールドで活動する人々が同じ場に集い、研究の先にある可能性について語り合う―。今回のInnovation Program #2は、そんな対話の場となりました。
Innovation Program #1で生まれた問いを、次のステージへ
Global Science Scholars(GSS)Programは、将来的に研究成果を社会実装やイノベーションへと発展させる可能性を持つ日米の若手研究者を対象とした2年間の育成・国際交流プログラムです。
プログラムでは、研究者同士の国際的なネットワーク形成に加え、自身の研究を「社会や未来のイノベーションとどのようにつながるのか」という視点から捉え直す機会として、複数回にわたるInnovation Programを実施しています。
2026年3月に開催されたInnovation Program #1では、ベンチャーキャピタル(VC)とのオンラインセッションを通じて、フェローたちが研究と社会実装の関係について率直な疑問や関心を共有しました。
「自分の研究は社会とどのようにつながるのだろうか」
「社会実装とは具体的に何を意味するのか」
「研究者が起業や事業化に関わる必要はあるのだろうか」
セッションでは、こうした問いが数多く挙がりました。
今回のInnovation Program #2は、その問いをさらに深めるためのプログラムです。実際に研究から事業化へ挑戦してきた研究者や起業家との対話を通じて、社会実装のプロセスや意思決定、困難や葛藤をより具体的に理解することを目的に開催されました。

Innovation Program#1の様子
「研究者のままでいるだけでは見えなかった世界」
今回のFireside Chatには、UC Berkeley Chancellor’s Professorであり、複数の研究・イノベーション拠点の立ち上げに携わってきたAmy E. Herr氏と、ディープテックスタートアップ・Elephantech株式会社の創業者兼CEOである清水信哉氏がパネリストとして登壇しました。

Elephantech株式会社CEO 清水信哉氏

UC Berkeley Chancellor’s Professor Amy E. Herr氏(画面中左)
研究者としてキャリアを築きながら、それぞれ異なる形で社会実装へ挑戦してきた二人。セッションでは成功談だけではなく、迷いや葛藤、思い通りに進まなかった経験についても率直に語られました。
Amy氏は、自身を「reluctant entrepreneur(消極的な起業家)」と表現します。
もともと起業を目指していたわけではありません。しかしスタートアップへの参画を通じて、自身の研究が研究室の外へと広がり、思いもよらなかった形で社会課題の解決に活用されていく姿を目の当たりにしました。
研究成果が社会へ届くことで、研究室だけでは生まれなかった新たな価値や応用が生まれる。その経験が、研究と社会実装を結びつける意義を改めて実感させたと語ります。
一方の清水氏は、東京大学大学院時代に抱いた違和感から話を始めました。
日本には優れた科学がある。しかし、その価値を社会へ届ける仕組みが十分ではない。
その課題意識からコンサルティング会社を経て起業の道へ進んだ清水氏は、創業後数年間にわたり投資家から厳しい評価を受け続けた経験も共有しました。研究成果を社会に届けるためには、科学だけでなく、資金、人材、市場との接続が不可欠であることを、自身の経験を通じて語りました。

「科学と資本市場をつなぐ」ことの意味
セッションの中で特に印象的だったのは、清水氏が語った「起業家の仕事は、科学と資本市場をつなぐことだ」という言葉でした。
優れた研究成果があるだけでは、社会実装は進みません。人材、設備、資金、顧客など、研究成果を社会へ届けるためには多くの資源が必要になります。
研究者として問いを深めることと、その成果を社会へ届けること。その間には大きな距離があります。しかし、その距離を埋める人がいることで、研究の可能性は大きく広がります。
またAmy氏は、研究者が日々経験する失敗や試行錯誤こそが、起業家としての強みになり得ると語りました。研究も起業も、不確実な未来に挑み続ける営みであるという点で共通しています。
同時に両氏は、「研究ができること」と「製品として社会で使えること」は全く異なる課題であることも強調しました。研究段階での成功と、社会で継続的に利用される製品の実現との間には大きな隔たりがあります。社会実装には、研究とは異なる視点や意思決定が求められることが共有されました。

フェローたちが見つめた、それぞれの「次の問い」
後半のQ&Aでは、日米のフェローから次々と質問が寄せられました。
研究と起業をどう両立するのか。
どのタイミングで社会実装を意識すべきなのか。
研究者はどのようにVCと向き合えばよいのか。
登壇者から明快な正解が示されたわけではありません。しかし、それぞれの経験に基づく率直な言葉は、フェローたちが自身の研究の未来を考える上で大きな示唆となりました。
参加者からは、
「研究者から起業家への転換に伴う葛藤や意思決定が印象的だった」
「自分の研究と社会実装との接点を具体的に考えるきっかけになった」
「異分野の研究者や起業家と話すことで視野が広がった」
といった声が寄せられました。


日米をつなぐコミュニティの第一歩
セッション後のネットワーキングでは、研究テーマや専門分野の垣根を越え、フェロー、起業家、VC、研究支援者の間で活発な交流が生まれました。
今回のイベントは、GSS Cohort 2025の全フェローが参加する初めての大規模な対面交流の機会でもありました。
横浜では研究やキャリアについて語り合う輪があちこちで生まれ、バークレーではディナーまで続く活発な議論が繰り広げられました。
Innovation Program #2でフェローたちは、研究と社会実装の間にある現実的な課題や可能性に触れました。
次のステップとなるInnovation Program #3では、こうした学びを踏まえながら、自身の研究がどのような社会課題と接続し得るのかを考え、事業アイデアやピッチの構築へと進んでいきます。
GSS Programが目指しているのは、すべてのフェローが起業することではありません。
研究成果が誰にどのような価値をもたらし得るのかを考え、自らの研究をより広い社会的文脈の中で捉えられる研究者を育むこと。そして、日米の研究者同士が継続的に対話し、将来的な共同研究や新たな挑戦につながるコミュニティを築くことです。
横浜とバークレーを結んだ今回の対話は、その長いプロセスにおける一つの重要なマイルストーンとなりました。
SS-Fは今後も、研究者とイノベーションエコシステムをつなぐ場づくりを通じて、科学が社会へと届くための新たな可能性を探究していきます。








Special Thanks to Bakar Labs, our Venue Sponsor in the United States, for supporting this event and helping foster connections between researchers and innovation ecosystems across Japan and the United States.