Stellar Lab Radio 第6回 ゲスト:山吉 誠也さん

今回の Stellar Lab Radio では、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、エンテロウイルスなどを対象に、感染のメカニズムやワクチン・治療法の研究に取り組む、国立感染症研究所(G-ISS) の山吉 誠也さんをお迎えしました。
前編では、「そもそもウイルスとは何か?」という基本的な疑問から、ウイルスが細胞に侵入する仕組み、細菌との違い、ワクチン誕生の意外な歴史、そして「良いウイルス」と呼べる存在まで、ウイルス研究の最前線をわかりやすく解説していただきました。
さらに、毎年インフルエンザワクチンを打つ理由や、すべてのインフルエンザに効く「ユニバーサルワクチン」の実現が難しい理由、免疫が最初に出会ったウイルスを忘れられない「免疫の初恋(Immunological Imprinting)」など、最新の研究成果にも迫ります。
「ウイルスは生き物ではない」「ワクチンはウイルスより先に生まれた」——そんな常識を覆すエピソードから、人類が感染症とどう向き合ってきたのか、そしてこれからどのように共存していくのかまで。身近でありながら意外と知らない”ウイルスの世界”を、ぜひお楽しみください。
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ウイルスとそもそも何?実は哲学的な問い?
苔口:今日のゲストは山吉さんにお越しいただきました。
山吉さん、こんにちは。よろしくお願いします。
山吉:よろしくお願いします。
苔口:
ありがとうございます。
まず、所属(国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター)についてなのですが、長くないですか?(笑)
山吉:
長いですよね。
これ、スラスラと僕もうまく言えないのですが。
苔口:
これは、あえてこのような長い名前になっているのですか?
山吉:
紆余曲折あって研究所が合併したことによって名前が長くなってしまった部分もあるのですが、いろいろな理由があると思いますね。
苔口:
ちょっと僕、滑舌が悪くて。
僕もカ行で始まる名前なんですけれども、これも本当に昨日の夜、たくさん練習しても難しかったので。
ご自身として所属を説明するときは、何とおっしゃるのですか?
山吉:
G-ISS(ジース)というのが一応、通称名として使われてはいるので、
「G-ISSの山吉です」ということが多いですね。
その他の名前は、ほぼ言わないことがほとんどですかね。
苔口:
なるほど、ありがとうございます。
ちょっとまた頑張って練習します。
山吉:
はい、ありがとうございます。
苔口:
ではまず山吉さんの研究についてお伺いしたいのですが、
ウイルスがどのように人に感染するのか、そのメカニズムを研究されているということで、どういった研究をされているのか、少し分かりやすく教えていただけますか?
山吉:
研究対象としてはウイルスを研究しているのですが、その中でもウイルスはいろいろなウイルスがいて。
僕が研究しているのはインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスですね。あとはエンテロウイルスといったようなウイルスの研究を今していて、それらのウイルスがどうやって人に感染して病気を起こすのか、またそれを予防するための治療薬であったり、ワクチンですね、そういったものの研究をしているところです。
苔口:
インフルエンザなんて毎年かかりますし、新型コロナウイルスは、皆様ご存じのパンデミックが起きましたし、エンテロウイルスも結構身近ですよね。
特にお子さんがいらっしゃる方は。
山吉:
そうですね。
お子さんは手足口病やヘルパンギーナといった病気が、エンテロウイルスが起こす病気としては非常に有名かなと思います。
苔口:
なるほど。ウイルスは結構身近だけれど、よく分からないものだなということはすごく感じていて。
ちょっとそもそもなのですが、ウイルスとは何ですか?
山吉:
ウイルスとは何かというのは、ものすごく哲学的な問題なんですよ。
基本的には生物ではないというふうに、一般的には定義はされていると思いますね。
しかし、とても生物的な振る舞いをするので、生物っぽい側面もあります。
「生き物ではない」のに、なぜ感染して増えるのか?
苔口:
生物ではないというのは、つまりどういうことなのですか?
山吉:
生物ではないので、代謝能を持ちません。
なのでウイルスが単独では生存し続けることはできないし、増えることもできません。
苔口:
単独では増やせない。
山吉:
増えることはできません。
栄養だけあれば増えることができるバクテリア(細菌)との一番大きな違いだと思います。
苔口:
バクテリアは、栄養の中に入れてあげると…。
山吉:
例えば、食パンに手を当てるとカビ(ができる例)などだったら、その食パンの栄養で(バクテリアは)増えることができています。
でもウイルスは、食パンにウイルスをかけても増えません。なぜなら、食パンの細胞は全部死んでいるものだから。生きてはいないからです。
だから、ウイルスが増えるためには生きた細胞が絶対に必要だというところが、一番の違いですね。
苔口:
パラサイト(寄生)みたいな(イメージですか?)
山吉:
寄生をするというか、細胞が生きていられるようにしている機能をうまくウイルスは使って、その機能をハイジャックして乗っ取って、自分を複製して、そのウイルス細胞を殺して新しいやつが出てくる。
苔口:
へえ。
山吉:
なので、1つのウイルスが細胞に感染すると、出てくるウイルスというのは、100とか1,000とかというウイルスが、1つの細胞から出てくる。
苔口:
そうなのですか?
山吉:
バクテリアの場合は、基本的には二分裂をするので、1個が2個、2個が4個という増え方をします。
そこも大きな違いかなと思います。
苔口:
爆発的に増えるということですね。
山吉:
ウイルスの場合はそうですね。
苔口:
生き物ではないのに増やせるというのが、意思を持っているように感じるのですが。
山吉:
非常にそのような面が大きくて。
そこは本当に確率論としてそういうのが選択されたりするので。
見た目としては、何か生きていて、これが選ばれている、このように進化しているというふうに感じてしまうのですが、実際には本当に物理学的な現象の結果として、そっちに向かっているというだけのことを、あたかも引いて見てみると、それが進化しているように見えてしまうというのが、ウイルスの挙動だと思いますね。
苔口:
ということは、ある意味、化学物質の鎖のようなものなのですか?
山吉:
基本的には構成要素としては核酸ですね。
ゲノムになっている核酸、RNAだったりDNAが核酸なのですが、それがゲノムになっていて、人でいうところの染色体に当たるものです。
そこにタンパク質を発現するためのコードがあって、そこから出てくるのがウイルスのタンパク質なのですが、その2つしか構成要素は基本的にはありません。
苔口:
シンプルですね。
山吉:
シンプルですね。
苔口:
そもそもウイルスが細胞に感染するというのは、入っていくことなのですか?
山吉:
はい。細胞の中に入っていくのですが、細胞の表面は基本的には細胞膜という脂質二重膜で、外界と細胞の中が仕切られているので。
苔口:
その細胞膜(に入っていくということですか?)。
山吉:
細胞膜ですね。
その細胞膜を通過しなければいけないのですが、それはウイルスにとってすごく大変な作業なので、いきなり何もなくてウイルスがボンと入っていくわけではなくて、細胞の表面にあるタンパク質にくっついて入っていきます。
そのタンパク質というのはウイルスによってそれぞれ種類が決まっていて、「このウイルスはこのタンパク質にくっつきますよ」ということが、基本的には一対一対応をしています。
なので、そのタンパク質がどういうタンパク質が細胞の表面にあるのか、そのレセプターと呼んでいるのですが、それにくっつくやつがいるところの細胞にしか感染することができません。
苔口:
鍵が決まっていて、その鍵の形が合っていたら入れますよと。
山吉:
もう一つ大事なのは、その細胞が体の、基本的には表面上にないと(いけないです)。
ウイルスは外からやってくるので、表面上にないと、その細胞には感染することができません。
苔口:
細胞が何かを中に引き込むというのは、通常あることなのですか?
山吉:
そうですね。基本的にはエンドサイトーシス(Endocytosis)などと言っていて。
元々これは細胞側のレセプターが、何かしらの人のタンパク質を取り込んで、中にシグナルを伝えたりするためのものなので、それをうまく利用しているということです。
苔口:
なるほど。
通常、細胞は血液からや体内で、いろいろ周りから栄養素などを取り込むために使われているその機構を、ウイルスは悪く乗っ取っているということですね。
山吉:
そういうことです。
苔口:
騙している。
山吉:
騙しているということですね。
本来の場所とはちょっと違うところにくっついたりということで、
あまり人の活動を邪魔しないようにしようとは努力しているふうな雰囲気は伺えるのですが、結果としては騙してそれを使って、うまく細胞の中に入ろうとします。
その種類がやはり一対一対応なので、ウイルスがどのタンパク質、レセプターを使うか、鍵穴をどれを使うかによって感染する細胞が変わってくるので、病気もウイルスによって変わってきます。ということが、ウイルスによって起こす病気が違うというところの説明としては、しっくりくるかなと思います。
苔口:
そういうことなのですね。
ウイルスは何種類くらいあるのですか?
山吉:
数え切れないくらいいて、地球上にいるウイルスのうちの多分数パーセントしか分かっていないのではないかなと思いますね。
10年以上前から知られているのですが、海の水を掬って、そこにどのようなウイルスがいるかを調べた人がいて、そうすると今までに知られていないような配列を持った、ウイルスのような核酸がめちゃくちゃ検出されたということがありました。
苔口:
怖いですね。
山吉:
現時点でも、そのようなウイルスは今のところ感染した生きたウイルスとしては捕られていないのですが、一応そのようなゲノムが存在するということは、多分そのようなウイルスが海の中にはいるのではないかと。
なので海水は水ですが、ものすごい量のウイルスがいるらしいというのは、論文上の話では聞いたことがあります。
苔口:
そうなんですか、怖いですね。
山吉:
でも人に感染することがないウイルスなので、特にそこに問題は起こってこないというのが、実際のところだと思います。
「悪者」だけじゃない。医療にも役立つウイルスの意外な一面
苔口:
そうなのですか。
ウイルスには、感染するものもあれば感染しないものもあって。例えば「良いウイルス」もあったりするのですか?悪いイメージが強いのですが。
山吉:
そうですね。ウイルスの場合は、人に感染するウイルスを研究することが非常に多いのですが、もちろん動物に感染する、犬や猫に感染するようなウイルスもいて、それで病気を起こすウイルスもいるのですが、それだけではなくて、例えば大腸菌といった細菌に感染するウイルスというのもいるのですね。
そういうのは「ファージ」と呼ばれているのですが、ファージは、大腸菌などバクテリアに感染して、バクテリアの中で自己を増殖させるというようなウイルスもいます。
そのようなものを使って、細菌感染症に対する治療として、バクテリオファージを使うということが今、研究として進められていますね。
なので、今、抗生物質などが効かなくなってしまって、「耐性菌」が世界的な問題になって、新しい抗生物質がなかなかできない。どんどん耐性化が進んで、将来的には手術ができなくなるのではないかというようなことが懸念されているのですが。
それの一つの解決策として、細菌に感染するファージを使ってあげることによって細菌をやっつけようという使い方もされています。悪いやつだけではないですよ、と。
苔口:
人間にとって悪い大腸菌というか、悪い菌に対して、ウイルスを使ってやっつけることもできる。
山吉:
ということもできるので。
悪いやつが多いからこそ、それを研究して悪くなくそう、その害をなくそうというのが、やはり研究の最初のスタートなので、どうしてもウイルスの研究というと、悪いウイルスをやっつけるための研究が多いのですが。
中にはそのように人にとって有用な方法でウイルスを使ってやろうというようなこともできます。それだけでなく、最近ではさらにウイルスを人工的に改変してあげて、がんの治療として使ってあげたりということも、実際に人で使われているので。
苔口:
ウイルスでがんを治療する?
山吉:
はい。
苔口:
面白い。
山吉:
いろいろ分かることによって、今まで人に対して害をなすことしかないと思われていたウイルスをうまく手懐けて、それを人の治療に使うというのは、実際、現実に起こっていることですね。
苔口:
すごいです。
ウイルスはそもそもめちゃくちゃ小さいじゃないですか。
山吉:
はい。
苔口:
レベルとしては、DNAやRNAの大きさ?
山吉:
よりは少し大きいですね。10nm(ナノメートル)や100nmくらいまでの大きさなので。
苔口:
それは見えるものなのですか?
山吉:
肉眼で見ることはできないですね。
もちろん、普通の光学顕微鏡などでも見ることはできないので、ウイルスを観察するときは電子顕微鏡というものを使ってやります。
電子顕微鏡の場合は基本的には「影」を見ることになるので、直接見ているかと言われると、直接見ているわけではありません。
苔口:
分からないのですか、実態としては。
山吉:
影を見て「ここにそういうのがいるな」というのが最初の方ですね。
最近はもう少し技術も進んできたので、「クライオ電子顕微鏡」というもので、ウイルスの構造を直接解析するというようなこともできるのですが、基本的には肉眼で見ることはできません。
苔口:
クライオ電子顕微鏡は、1億、2億(円)くらいするような(ものですよね?)。
山吉:
そうです。
凍らせて、その中のサンプルをいろいろな角度から写真を撮ってあげるという機械なのですが、そのようなもので形などもかなりはっきり見えるようにはなっているんですけど。
基本的には目では見えません。
ワクチンは、ウイルスが発見される前に生まれた!?
苔口:
その影があって、それで「こういうものなんだ」とか「仕組みがこうなっているんだ」というのを見ることができる、ということなのですね。
そもそもウイルスに戦おうということで生まれてきたのが、ワクチンですよね。
ワクチンはやはりウイルスそのものなのか、どういったものなのですか?
山吉:
元々、ウイルスに対するワクチンというのは、ウイルスの発見よりも前に「ワクチネーション」という言葉ができた。語源になっているのは、天然痘に対するワクチンである「牛痘(ぎゅうとう)」ですね。
それが一番最初に見つかったのですが、それはジェンナーという人が確か見つけたはずなのですが、牛痘という、牛の天然痘に似た病気があって、その牛痘の病変を人に皮膚に擦り込んであげると、その擦り込まれた人は天然痘にならないということを発見したことで証明されたと言われています。
元々は、乳搾りをしている人たちは天然痘にかからないという迷信のようなところから、それが見つかったという噂は聞いています。本当かどうかは分かりませんが。
苔口:
そうなのですか。
山吉:
それを証明して、「じゃあこれワクチンに使えるじゃん」と言って使い始めたのがワクチネーションの最初の起こり。
そのときはまだ、ウイルスのことは分かっていなかった状況です。
苔口:
ウイルスそのものが存在するか分からないけれど、乳搾りの人たちがなぜか天然痘にかからないということで、「これを擦り付ければ治るのではないか」というところから。
山吉:
「かからないのではないか、予防できるのではないか」というところで最初に始めたのがジェンナーという人で。
よく見つけましたよね、それも。
苔口:
すごいです、発想が。面白い。
ウイルスはその後に発見されたのですか?
山吉:
その後、確か植物のウイルス、「タバコモザイクウイルス」というウイルスが確か最初だったと思うのですが。
タバコという植物の葉っぱからできているのですが、そのタバコの葉っぱを枯らしてしまうようなウイルスがいて。それ、何か原因が分からなかったのですが、いろいろ調べていったら、細菌ではない何かで感染が起こって病気になるのが分かって。
それを調べていった結果、最終的には「ウイルスだった」ということが分かったのが、もう少し後の時代、1900年代くらいだったと思います。
僕もあまり詳しくないので分かりませんが、それくらいの時代だったと思いますね。
苔口:
その頃には細菌というものも分かっていて、でもどう調べても(その最近とも)違うぞと?
山吉:
細菌の場合はやはり大きくて、顕微鏡で見ることができるのですね。
でもウイルスの場合はそれを見ても観察できない。
けれど、このよく分からない液体をタバコの葉っぱに垂らすと病気になる。でも、そこを一生懸命見ても細菌はいない。じゃあこれ何だろうというところから、ウイルスが見つかったという。
苔口:
そういう発見は面白い。
すごく観察からの発見というか、乳搾りしている方たちがかからないとか、タバコの葉っぱが枯れてしまうとか、すごいです。
山吉:
そこからウイルスはどんどんどんどん、いろいろな種類が見つかって、今ではもう本当に数を数えられないくらい見つかってきています。
最近よく聞いて面白いと思うのが、昔はやはりウイルスと細菌は全然違うものだと思われていて、最初に説明したような話だったのですが、どんどんどんどんこの間が近づいていって、だんだんオーバーラップしてきていて、境界線がすごくグレーになってきて。
ウイルスなのかバクテリアなのかよく分からないようなものも出てきていて。
苔口:
そうなのですか!
山吉:
理科のときには、小学生では「ウイルスと細菌は違うのだよ」と習うのですが。
最近の論文を見ていくと、もう「ウイルスなの?細菌なの?どっちなの?」というくらいの両方が見つかっている。
一応、厳密に分けたら「これはウイルス側かな」「これは細菌側かな」ということで一応分類はしているみたいですが、だんだんその境界も曖昧になりつつあるという現状みたいですね。
苔口:
それは新しいウイルスがどんどん見つかっていって、それでも進化して増えていっているのですか?
山吉:
基本的には今までいたやつを、今まで見ていなかっただけで、それを見つけてきたというのが正しい認識ですね。やはり一番大きいのはディープシークエンサーですね。
次世代型のシークエンサーというものができて、大量のDNAをいっぺんにシークエンスして。そのDNAの配列を組み直す、元々どういう配列をしていたのですか、ということを再構成する技術が、ここ10〜15年くらいでものすごく進化したので。
そのようなものを使うことによって、世の中にいるウイルスの種類はどんどんどんどん新しく見つかるという状況ですね。
苔口:
知らなかったことがどんどん分かってくるから、増えているように感じるけれど、元々、世の中にいたはずということですね。
山吉:
そういうことです。
苔口:
生物、私たち人間も、基本的にはそのようなものに対して戦える体にはなっているのでしょうか?
山吉:
ただその新しく見つかったものというのは、基本的にはそんなに人に対して病気を起こさないような、人に感染できるようなものではないので、知られていなかったのだと思います。
もちろん何か感染する相手がいないと、そのウイルスは存在したり増えたりできないので何かに感染して増えるのですが、その感染する相手が人ではないから、人の病気として認識されない。
だからウイルスとしても認識されていなかったというのが正しい認識かなと思いますね。
苔口:
そういうことですね。
生物の数があるだけ、きっとウイルスもあるだろうということ。
山吉:
そういうことです。
苔口:
鳥インフルエンザなどは人間にかかる、かからないがありますが、基本的にはかからないもので。
さっきのタバコのものもかかっていないけれど、その辺に生えている花などにも、もしかしたら何かしらウイルスがあるかもしれない。
山吉:
必ずあると思いますね。
苔口:
必ずあるのですか。
山吉:
ただ、それが病気を起こすようなウイルスというのは結構、数が限られていて。
病気を起こすものに関しては、やはり一定程度研究が進んでいる。
特に人の病気であったり、人と密接なつながりがあるもの。
例えば養殖している魚であったり、犬、猫、牛、馬、豚などは、やはり人と非常に産業的にも密接に関係があるので、そのような動物に対するウイルス感染症というのは、すごく研究が進んでいます。
植物についても、例えばリンゴといった、いわゆる果物のようなもの。
苔口:
バナナなどは、国際的に食べられているものがほぼ1種類しかないから、菌に感染したら絶滅してしまうかもしれない、といった話もありますよね。
山吉:
そのようなものに関する病気に関する研究というのは、研究者も比較的多い。
ただ、人にとってメリットがない植物に対するウイルス感染症、それは他の病気もそうだと思うのですが、そういうのはあまり研究した人がいないので、何が起こっているかよく分からない。
苔口:
研究が進んでいくほど、どんどん解明される。
山吉:
新しいことが分かっていくということです。
苔口:
ウイルスは、もっと本当にまずいものというか、もちろん命に関わるものではあるけれど、結構、世の中には、身の回りにはたくさんそもそもあって。
そのうち悪さをしているものが一部ある、という感じですね。
山吉:
そのような感じですね。
苔口:
なるほど、そういうことなのですね。
その中で特に山吉さんはインフルエンザ、新型コロナウイルスと、エンテロというところを今、中心的に研究されているのですが、どういうきっかけでこの3つを今、見られているのですか?
山吉:
インフルエンザは、元々研究を始めるきっかけというか、研究のところに進もうと思ったきっかけであって。それで始まったところですね。
新型コロナに関しては、2019年〜2020年のパンデミックでもう、のっぴきならない事情だったので。しかもウイルスの感染症をやっているということで、やらない理由がないという感じですね。
エンテロに関しては、ポスドク(博士研究員)で最初に、博士課程が終わった後ポスドクで研究を始めたところで。所属したラボがエンテロウイルスの研究をしていて、そこで始めてしばらくやっていなかったのですが、最近またちょっと開始したというところですね。
なぜインフルエンザワクチンは毎年打つの?
苔口:
どういった研究をされているのですか?ウイルスを研究するというのは。
山吉:
どういったと言うと非常に難しいのですが(笑)
先ほどもお話ししましたけれど、ワクチンはどういうふうなコンセプトで作るといいかというところもそうですし、あと、ワクチンが効かない理由、
「何でインフルエンザのワクチンって毎年、打たなければいけないのだろう」と。
「打っても効かないのだろう。何でだろう」と思いますよね?
苔口:
A型かB型か、どちらかしかなくて。でも本当はたくさんあるのですよね。
山吉:
そうですね。
A型もH1とH3という2種類、ワクチンには入っていて。
「何でそんなにいっぱい必要なのだろう」とか、いろいろ皆さん疑問に思うのですが。
「ワクチンを1回打ったらずっと効くようなワクチンができたらいいな」と。
「1種類で全部のインフルエンザをやっつけられる、予防できるようなワクチンができたらいいな」というのはみんな思っていることで。それができるような研究をしているのですが、やはりなかなか難しい。
何でそれが難しいのかということが分かると、その原因を突き止めれば、
そのような何にでも効くようなワクチン、我々業界では「ユニバーサルワクチン(ユニバーサル・インフルエンザワクチン)」
と呼んでいるのですが、そういうのにつながるのではないかということで、ワクチンが効きづらい理由を研究しているところですね。
苔口:
差し支えない範囲で、その一番難しいところ、原因は何なのですか?
ワクチンの種類が多いのか、それとも実はやはり仕組みが難しいのか。
山吉:
一番難しい理由というのは2つあって。一番ではないではないか、という話なのですが。
1つは、ウイルスが変わりやすい。
コロナの話だと、よく比較的新しく記憶に新しいかと思いますが、最初、流行していたやつからオミクロン株というのが出て、ワクチンを最初打ち始めたのから、オミクロン株が出てきてずいぶん変わったやつになって、ワクチンの効果がすごく低くなってしまったという話があったと思います。
今、ワクチンが効きづらいと言われているインフルエンザやコロナというのは、ワクチンのターゲットにしているタンパク質というのが、比較的、変化しやすい性質があるのですね。
変化しても大丈夫なのです。
なので、これだと思ってワクチンを作っても、ウイルスの方が形を変えてしまう。
そうすると、今使っているワクチンが効かなくなってしまうというのが、一つ大きな問題。
ウイルスによってはその形があまり変えられないので、そうすると1つ決めたワクチンをずっと使い続けられるというようなウイルスもいます。
それで有名なのは、はしか(麻疹)ですね。
麻疹ウイルスなどは、ワクチンをずっと同じやつを使っていても変えなくてもいい。
あとはポリオウイルスも、ワクチンを変えなくてずっと同じものを使っていられるウイルスとしては有名なのですが。
それらに比べて、インフルエンザや新型コロナウイルスなどは形が比較的変わる。
HIVもそうですね。そのようなものは比較的形が変わりやすいので、ワクチンをずっと同じものにしていても効かない。変わってしまう。というのが1つの、効きづらい理由。
もう一つ大きいなと最近思っているのが、「イミューン・インプリンティング(Immune imprinting)」という現象ですね。
「免疫の初恋」がワクチンを難しくする
苔口:
イミューン・インプリンティング?
山吉:
何と言えばいいのだろう。
某有名な大学の先生がよく説明するのは「初恋だ」という説明をすることが多いのですが。
一番最初に出会ったやつのことを、ものすごく記憶してしまう。
そうすると、ちょっと変わっても、昔のこの子のことが忘れられない、という現象らしくて。
苔口:
ウイルスが?
山吉:
ウイルスが最初に初めて感染します。
その感染したことのことをものすごく覚えてしまうんですね、免疫が。
そうすると、それはちょっと変わっても、その変わったことを「変わった」として見なさなくて、一番最初に出会った子のことを、どうしても思い出してしまう。
苔口:
人間側の免疫が、こいつ大好きではないけれど、
山吉:
「ウイルスはこいつだ」と言って、最初に見つけて、このことを覚えすぎてしまう。
でも、この人が変装したりとかちょっと服が変わってしまったら…
苔口:
「あれ、分からない」
山吉:
ちょっとどころではなくて、結構変わっても、「いやいや、前のこの子でしょう」となってしまうというのが一つ問題で。
初恋を思い出す。
新しい女の子が来ても、結構違うはずなのに初恋の子と比べてしまうという問題らしいのです。それは某有名な先生がその例えをよく使うのですが。
それを英語で言うと「Immunological Imprinting」。
日本語で言うと、教科書などに書いてあるのは抗原原罪?Antigenic Sinという英語にもなっているのですが。
いわゆる、そのような思い込みというか、最初に出会ったときの印象が強すぎるということが問題になっていて。
そうすると、ちょっと変わったやつが出てきても、ちょっと変わったウイルスに対するワクチンを打っても、「いや、これは最初の子でしょう」と言って、そっちに対する免疫ばかり作ってしまって。新しい抗原に対する免疫が応答しなくなってしまう。
なので、なかなか新しい変わったやつのワクチンを作っても、うまくそっちに対する免疫を誘導できない、というところで、なかなかワクチンが効かない。
苔口:
1つ目は、どちらかというとウイルス側が結構変化しやすいと。
どんどん服を変えていく、ファッションが好きでどんどん服を変えていって。
逆に受け手側、本当は悪い人を攻撃しなければいけない免疫が、最初の印象が強すぎて、ウイルス側がどんどんちょっと変わってきてしまったときに、うまく攻撃ができない。
山吉:
対処がうまくないのですね。
ものすごく変わってしまえば、それは違う人というふうに認識できるのですが、比較的、面影が残っているとどうしても引っ張られてしまうという。その両面ですね。
ウイルス側がうまいことやっているというのと、人の側の免疫がうまいことやれない。
苔口:
そういうことですね。
それで、なるほど、だからなかなか解決できないものがあるということですね。
ポリオは、もうずっと変わらず同じ形を維持しているので、基本的にはもう1つのタイプのワクチンでほぼ撲滅できたということですか?
山吉:
そうですね。変われないというのが正しいですね。
変えたくても変えられないので、ずっと同じ形でいなければいけない。
なので、ずっと同じワクチンが使える。
苔口:
そういうことなのですね。
では、そのユニバーサルワクチンと言われているものは、変わらない部分を攻撃しようとしている?
山吉:
その通りです。そのようなところに対する免疫を作ってあげれば、ずっと使えるようなワクチンであったり、いろいろなものに効くようなワクチンになるのではないか、と考えますよね?
(実験を)やりますよね?
(でも、)案外うまくいかないのですよね。
山吉:
なので、もう少し新しいアプローチが必要なのではないかというのが今、現状ですね。
なかなかそのような、ある意味単純な話ではユニバーサルワクチンはできなさそう、というところまで今来ていて、じゃあその次のステップとしてどうしようかという。
いろいろなことを今考えているところですね。
世界を守るワクチン研究、その裏側にある課題
苔口:
このようなワクチンは、世界中の関心事ですね。
例えばビル&メリンダ・ゲイツ財団なども、ワクチンに対してすごく支援をしていたり。WHOもきっと、特に途上国などで、なかなか撲滅できないウイルスをどんどん無償で提供するのですかね?
(いろんな機関が)やはり支援をして、という話も聞くのですが。
かなり世界的に、研究者が多い分野なのですか?
山吉:
そうですね。
ワクチンと言っても、研究者は比較的少ない分野でもあったのですよね、コロナが流行るまでは。
というのも、なかなか企業としての、ワクチンを開発するリスクと、そこから得られる利益(ベネフィット)のバランスが非常に取りづらいのがワクチンの開発で。
例えば抗がん剤であったり、「このまま何もしなければ命を失ってしまいますよ」という薬の開発の場合、お金をかけて開発しても、その治療代金を比較的高額にしても、人は、先進国の場合はそのような薬を使う選択肢もあるのですが、ワクチンの場合、どうしても良いワクチンであればあるほど、1回しか打たなくてよくなったり、少ない回数でよく効くようになると。
そうすると、日本人は1億人いますが、例えば1人2回ずつ打てばOKだったら、2億回分しかワクチンを打たなくてよくなってしまう。その後は、新しく生まれてきた人が打つだけになります。そうすると、最大数というのがどうしても決まってしまう。
「1回当たりワクチン打つのに100万円出しますか」と言われると、
「いや、それだったら打たないよ」という人がどうしても増えるので、1回当たりの接種料金もそんなに高く取れない。
そうすると、開発するためにはものすごい膨大な費用がかかるにもかかわらず、売上としてはそこまで大きくならないというところで、どんなに基礎研究を進めても、実用化というところにものすごい大きなハードルがあるというのが現状です。
苔口:
そもそも、投資したとしても、研究して開発できたとしても、回収できる可能性が極めて低いということなのですね。
山吉:
そういうことです。
苔口:
だから、(民間企業ではなく)ああいう慈善家のような方や、世界的な機関が(サポートしている?)
山吉:
半分公的なお金、といったところが多額のファンドを出してくれて、それで何とか実用化を目指そうとしているのが、世界的な流れですね。
日本に関してはAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)のSCARDA(先進的研究開発戦略センター)の方から、「ワクチン開発しましょう」ということで、お金のサポートが今、日本では出ています。
そのようなお金をうまく使って、何とか新しいワクチン、日本発のワクチンができないかということで、今やっているところです。
苔口:
経済的に余裕のある先進国が頑張ってワクチンを開発して、世界のみんなにも提供するというような?
山吉:
基本的にはそのような構図です。
なので途上国で大変な病気である、例えばマラリアであったり、デング熱といった病気は、日本には特にないんですけど。そのような病気に対するワクチンも日本で研究して、何とかそれを世界にデリバリーしようという流れとしてはあります。
そのようなワクチンを開発するのはいいのですが、実際に人で使って効果があるかどうかを確認するときは、日本にない病気のワクチンの効果を見るのは日本ではできません。
なので、それが問題になっている国に行って、そこでちゃんと効くかどうかの検証をする必要もあるので。
ワクチンの研究をするのだとすると、国内ももちろん大事なのですが、やはり世界でどのような病気が問題になっているかを見ながら、開発する必要も出てくると思います。
苔口:
薬の開発は、なんとなくやはり、その国にいる、日本であれば日本人に対して蔓延している病気や、がんも基本的には日本人に対して投与するからここで実験できるけれど、ワクチンは、どちらかというと、その場にいない方を治療するものが多い。
山吉:
もちろん日本に全くいないから、いなくても、いない病気でやればいいというわけではありません。
国内も重要です。
でも、それだけ見ていると、どうしても視野が狭くなるというか、限られたターゲットに対してみんなで研究することになってしまう。
もっとグローバルな目線で。
感染症の場合、「国境がない」というふうによく言っていて、コロナの場合もそうだったと思うのですが、あっという間に世界中に広がってしまうので。どのような感染症がどこで発生するかは誰にも予測ができないので、
「国内にないから開発しなくていい」というわけではなくて、「世界の病気を少しでも減らすため」という目線がやはり必要になってくるのですが。
なかなか、そのような大義があっても、営利企業の場合は難しい部分もある。
規制がどうしても国ごとの規制になるので、日本で承認が下りても隣の国では使えない。各国ごとにその承認を取っていかなければいけないので、それを取るのもものすごく労力のかかることなので。日本でOKだったからといって、他の国ですぐに使えるというわけではないということも開発を難しくしている部分でもあったりします。
苔口:
結構世界的な現象かなと思っていたんですが、ウイルス。
特にデング熱やマラリアも、蚊がいるところには基本的にどんどん広がっていってしまう。だけど、「みんなで協力してやろう」となると、意外とチャレンジが多い。
山吉:
かなりですね。
企業側のところで、かなりグローバルなネットワークを持っているような会社じゃないと、世界的なワクチンというのは中々開発は難しいなと思います。
逆に今回のコロナでこれだけのスピードで、開発されて世界中で使われたというのは考えられない。
苔口:
研究者って増えたんですか?
山吉:
めっちゃ増えました。
苔口:
例えば今、日本で「ウイルスを研究しています」という人は、通常だとどのくらいいるのですか?
山吉:
日本ウイルス学会というウイルスの学会があるのですが、そこで毎年どこかでやっているのですが、参加者数はだいたい1,000人〜3,000人くらいの間ですかね。
それに参加していない研究者の方々もいらっしゃるので、多く見積もっても、日本で学生さんも合わせて5,000人くらい。そんなにいないかな?でもそれぐらいだとして。
多分、そのときは違う分野の人たちも「コロナの研究しよう」と思って参加されたので、多分3倍以上にはなったのではないかなと思います。
それこそ武部さんなども、コロナ関連でイグノーベル賞を受賞した研究なども、それに関連したところもあったと思うので。
苔口:
(武部さんの研究は)コロナの影響を受けて「呼吸が肺だけではなくて腸でも(できるのでは)」というものでしたね。
山吉:
多分、そのプラスアルファの部分はすごくあったのかなと。
苔口:
ウイルス外の方々というのは、例えば細菌の研究をしている人がウイルスに来るのか、武部さんのように全く違う分野から来る方もいたということですか?
山吉:
どちらかというと、全く違う分野の人たちの方が多かったと思いますね。
例えば免疫をメインにしていた人や、それこそ再生医療をやっている人たちが参加した方が、数としては多かったと思います。
苔口:
やはり人体に与える影響が大きいから?
山吉:
あらゆる分野の人がそこに参加したという感じで。
研究者を挙げて、僕の感覚では、全部の関係する研究者の人が「コロナ何とかしよう」として研究をしていたというイメージでしたね。
苔口:
そのとき、問い合わせなどが来たら大変だったのではないですか?
山吉:
でも、問い合わせられても困ってしまうという。
何もよく分からないところが最初だったので。
ウイルス研究室より満員電車の方が怖い!?
苔口:
ウイルスを研究するというのは怖くないですか?
山吉:
怖いと思ったことは、研究室内ではありませんね。
苔口:
というのは、すごく勝手なイメージなのですが。
この前も映画の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を見まして。あれはウイルスではなくて細胞だったと思うのですが。でも結局、分からないものを、毒性のあるものを防護服を着て、すごく消毒して。
どこかでだいたい手袋が切れて、どこからか体に侵入して「やばい」みたいな、そのような映画やドラマの印象が強いのですが。
ウイルスの研究ってすごく大変じゃないですか??研究者って、結構リスク怖くないですか?人体にウイルスが入ってくるとか?
山吉:
でも実験室で扱うときは、「これは危ないものだ」と思って扱っているので、その危険性はすべて排除して、何か一つ思わぬハプニング事故のようなことが起こっても、それで直接何か影響がないような処置を取って実験しているのですね。
なので、それが2つ、3つ、4つと重ならないと自分に影響がないような状況なので。
だから、例えばコロナのときなどは、ウイルスを使って実験するときも、実験室で使っている方が安全で、「外で電車に乗ったりする方が怖いな」と思うのではないかなと思います。
苔口:
そうなんですか。
山吉:
実験室だと、自分が感染するのが一番危険なので、すごい防御をするんですね。
なので、感染するリスクはほとんど、ほぼありません。
苔口:
例えば、どういう防御ステップがあるのですか?
山吉:
まずN95というヘパフィルターでほぼ粒子を通さないようなマスクをするのが一つと、さらにその上から「ポジティブ・プレッシャー・マスク」と言って、ヘパフィルターを通った綺麗な空気が頭の上から流れて一方方向になって、中に外の空気が入らないようなマスク。帽子のような、頭全体を覆うようなものを被っています。
呼吸器に関しては、それで守られている、というのがあります。
実験するときは手袋は二重にして、ゴム手袋は二重にしていますし、服も普通の普段着でやるのではなくて、「タイベック」という、全身を覆っている使い捨てのもので覆っています。それは実験室を出るときに全部脱ぐので、そこで何か手に付いたとしても、自分の素肌や着ている服には付かないようになっています。
足元は足元で、シューズカバーをして、さらにその上から長靴を履いて。その長靴も全部中で脱いできます。
着ているものは全部脱いだ上で外に出てくるので、実験室の中で何かウイルスが付いたとしても、外に持ち出すこともないし、自分が冒されることもありません。
苔口:
すごいです。宇宙に行って出てくるような。
山吉:
BSL-4などは、いわゆる宇宙服と言われているようなスーツを着て、本当に宇宙服のようなもので実験するんで。
苔口:
BSLというのは?
山吉:
どれくらい危ない病原体を取り扱ってよいかというレベル分け。1〜4まであって、4というのが一番危険なウイルスを扱うところです。
僕はそこで実験したことはありません。
そのような場所だと、本当に宇宙服のようなもので、空気はチューブを伝わって送られてきて、潜水士のような感じで実験をする状況だそうです。
苔口:
特に息などは別に苦しくないのですか?
山吉:
空気が送られてくるので苦しくはないと思うのですが。
閉所恐怖症の人などは、ちょっと辛いのかもしれないですよね。
苔口:
音がこもったりとか。
山吉:
それはBSL-3でもそうです。
やはり音は聞きづらいですし、あと、ずっと換気をしている機械が回っているので、ずっと「ゴー」という音を聞きながら実験することになります。
苔口:
そこにだいたい、1週間に何時間くらい過ごすのですか?
山吉:
長い人だと、1日のうちの半分くらい、例えば5時間くらい入っていた人もいたのではないかなと思いますね。
苔口:
すごいです。
山吉:
そのような状況だったので、土日などはあまり関係ありませんでした。
苔口:
特にパンデミック中は、「どういうことなのだ」ということをひたすら見ていくということですね。
すごいです。いろいろな研究室を回らせていただいていますけれど、本当に映画の中の世界ですね。
完璧に何も出ないように防護されていて。
山吉:
そこまでやるのは、BSL-3という病原体を取り扱うような研究施設を使っている人たちですね。
2などだと、比較的もう少し緩い感じの。
苔口:
それは慣れるものなのですか?
最初、やっぱり怖くない時期はなかったのですか?
山吉:
あまり僕はなかったですね。
BSL-2のところでちゃんとトレーニングして、そこでインフルエンザなどの比較的病原性が低いものを扱って、それで慣れていたところでBSL-3で実験を始めたので。そんなに「怖い」という感じはありませんでした。
慣れるというよりは、大変なのは手袋を二重にして実験することなどは、やはりあまり普段もないので、その握る感覚などは若干、変な感じはします。
苔口:
繊細なものを取り扱うときと、ちょっと感覚が違うのですね。
山吉:
若干違います。でも、それもすぐ慣れるかなという感じです。
苔口:
ちなみに全然関係ない話なのですが、普段生活の中で結構、潔癖症だったりするのですか?
ウイルスを普段取り扱っていると。
山吉:
日常生活の中ではあまり感じないのですが、ところどころで「綺麗」と「汚い」という感覚が、特に妻とその感じ方が違うというのはよくあります(笑)
苔口:
どう違うのですか。
山吉:
気にする点が、妻と僕で違っています。
僕は「バクテリアがいるかどうか、広がるかどうか」というところを気にするのに対して、妻は「汚れ」のことが気になる、というところだったり。若干、気にするところが違うな、と感じることはあります。
もしかしたら一般的な夫婦の感じ方の違いかもしれませんが(笑)
人類のための研究を、どう進めるか
苔口:
なるほど、ありがとうございます。
そのような防護服を着たり、かなり密な環境で研究をされている、
かつ、さっき結構国際的な、意外とチャレンジの壁があるとおっしゃっていたのですが、やはりウイルスは国際的な関心事ではないですか。
そのような時の共同研究はやはり多いものなのですか?
山吉:
正直そんなに多くはないのかもしれないですね。
苔口:
意外ですね!
山吉:
アメリカなどだと、アメリカ国内の研究者で共同研究するというのはすごく多いみたいですし、そのようなことはよく聞きます。日本でも、やはり国内で同じウイルスの研究をしている人などと共同研究するのは比較的多いと思うのですが。
国境を越えてすごく頻繁にやり取りをされているかというと、ものすごく多いわけではないのではないかなと思います。もちろんやっていらっしゃる先生方はたくさんいるとは思いますが、「それが普通」とか「それが基本で、国内だけでやっているなんてことがない」という感じではないと思います。
苔口:
結構意外ですね。テーマとしては世界共通テーマなのかなと思いつつ。
それには理由があるのですか?
山吉:
ちょっと僕も、他の分野の研究がどのようなものかがよく分からない部分もあるので、何とも言えないのですが。
研究テーマとして、ラボで実験するものに関しては、そこまでいろいろな国の人たちと情報共有しなくてもできる部分があります、基礎研究に関しては。
ただもう少し広い、今回のパンデミックのときであったり、ワクチンの開発、治療薬の開発のように、一つの国、一つのラボだけではどうしようもないような事象に関しては、国際共同研究のようなものが動きやすい、というのはあるかもしれません。
苔口:
ウイルスは意外とドメスティック(国内的)というか、日本にしかないものもあったりするのですか。
山吉:
地域に限られたウイルスは、比較的あります。
苔口:
そこが優先的に研究される、という場合もある。
山吉:
はい。
なので、国際的なウイルス学会などに行くと、ある有名な研究者が研究発表するから聞きに行こうと思って聞きに行って、発表する内容のウイルスを聞いたら、聞いたことがないウイルスだったこともありました。
それをちょっと調べると、アメリカでは比較的流行しているウイルスで、「へえ、そんなウイルスあるのだ」というようなこともあります。地域によって、その人たちが研究している地域に根ざしたようなウイルスの研究をしているところがあるので。日本もそうだし、アメリカもそうだし、ヨーロッパもそうなのですが、比較的研究が賑やかな、研究者が多いウイルスというのは、その地域によってちょっとずつ違っていたりします。
苔口:
そうなんですね。
山吉:
やはり、ラボの有名な先生がいると、その国はそのウイルスの研究者が増えるというのも。徒弟制というか。その有名なラボに行って、自分で新しくラボを作るので。そのようなことも少なからずあります。
苔口:
確かに冒頭の方におっしゃっていた、ウイルスは細胞がないと増えない。
生物が結構地域によって違ったりすることを考えると、もしからしたらウイルスも自然とローカルというか、国ごとに変わってくるのかな、となんとなく理解しました。
山吉:
野生のネズミなどに感染しているウイルスで、たまに人に感染するようなウイルスだと、ネズミの種類によって違ったり。ダニにもともといて、ダニから人に感染するやつなどは、そのダニの種類で、
「この地域にはこのダニがいて、そのダニにはこのウイルスがいる」という対応があったりするので。本当に地域に根ざしたようなウイルスもいます。
一方で、コロナやインフルエンザのように、あまり国境を気にせずに、いろいろ出張できるものもいます。
苔口:
なるほど。
宿主というか、それが例えばカンガルーにしかかからないウイルスがあれば、それは当然、日本にはないだろうし。
日本だとエゾシカにしかかからないウイルスがあったら、それは日本独自のものかもしれない。それで実は、すごく閉じた研究だったりするのですね。
山吉:
日本でしかいないウイルスの共同研究を国際的に行うというのは、なかなかハードルが高くて。
ウイルスはものすごく各論的な研究で、ちょっとウイルスが変わってしまうと、もう話が通じないくらいの感じになってしまうのです。
苔口:
そうなのですか。
山吉:
同じウイルスを研究している人同士だったら共同研究もしやすいのですが、でも逆にそれってコンペティター(競合相手)でもあったりするので。共同研究がしづらかったり。
苔口:
面白い。
山吉:
近くの研究者だったらそれができるのかというと、またそれは話が違いすぎて、なかなか共同研究がしづらかったり。
やらなければいけないところ、やったほうがいいところと、できないところという二面があって。
苔口:
研究が進むのは共同研究の方が進むのか、やはり独自の研究室がそれぞれ孤立してあったほうがいいのか。どっちかというのはあるのですか?
山吉:
ケース・バイ・ケースですが、本当に人類のことを思ってやるのであれば、共同研究でどんどんどんどん進めるほうがいいのだと思います。
苔口:
それが進まない理由が意外と制度的なところが多い。
山吉:
そうだし、あとは新しい発見があったときに、「それは誰の成果になるのですか」という、研究者としての成果、名誉欲のようなところも少なからず影響はしてくるのではないかなと思います。
「これは自分が見つけたのだ」というのか、「これはここのラボとの共同研究の結果です」というのか。人類にとってみれば、どちらでもよい発見なので、早くそれが分かってどんどん進んだほうがいいのは確かなのですが、一研究者として、どちらが良いのかと言われると、答えに窮する部分も僕はあります。
苔口:
確かに。
でもウイルスの研究は、改めてさっきもおっしゃっていたように、そもそも会社としてやろうとすると、お金が回収できないかもしれない。すごくリスクが高い。
その課題もあるし意外とローカルなものが多くて、その地域、国の生物を使ってウイルスが増えるから、自然とその国にしかないウイルスもあったりするし。研究者としての立場というか、それでなかなか共同研究がしづらい。
結構いろいろなチャレンジがあるのだな、ということがよくわかりました。
山吉:
そのような既成概念を取っぱらって共同研究ができると、新しいことが見えてくることもあります。
最近特に思うのは、同じウイルスの研究者同士で共同研究するのもいいのですが、ちょっと違う分野の人と共同研究をすると、新しいアプローチができるなと感じることが多いので。そのような共同研究のほうが、もしかしたらやりやすいのかもしれないかな、とは思いますね。
苔口:
直接のウイルス研究者ではなくて、別の分野、臓器や病態の。
山吉:
「こういうやつを使うと、新しいこういうのが見えてくるのではないか」という共同研究ができると、そのほうがお互いにとってやりやすいのかな、と感じます。
苔口:
それをぜひ、SS-Fを通してコラボレーターが見つかるといいですね。
Stellar Lab Radio.
山吉さんをゲストにお迎えしてお届けしているエピソードの前編はここまで。
後編もぜひ、お楽しみに。
Stellar Lab Radio−まだ、誰も知らない世界を変える研究について
ホストはステラサイエンスファウンデーションの苔口 穂高でした。
See you soon on stellar lab radio.