5人の若手研究者が語る、研究への情熱とコミュニティへの期待
STELLAR SCIENCE FOUNDATION(SS-F)とANRIが共同で立ち上げたNova Science Fellowshipは、挑戦的な研究に取り組む若手研究者を、資金とネットワークの両面から支援するプログラムです。
2025年10月、第1期採択者5名が一堂に会した初回ミートアップでは、異分野間の刺激的なディスカッションが交わされました。それぞれの研究への情熱とともに、日本の若手研究者が直面する構造的な課題についても率直なトークが展開されました。
この記事では、彼/彼女らの多様な研究内容と、議論を通じて見えてきた「人とのつながりの重要性」をお届けします。

「新しい領域への挑戦」―― 5人のフェローたち
ミートアップは、各自2分間のライトニングトーク形式の自己紹介と、5分間の質問タイムを1人ずつ繰り返す形でスタートしました。それぞれが取り組む研究テーマは多岐にわたりますが、共通するのは「新しい領域への挑戦」です。
岩本侑一郎さん(東京大学)

深層学習と計測技術を融合させ、超高速単一分子計測に挑みます。「複雑な現象をどうシンプルに表現するか」に興味があり、来年から海外の研究機関へ。座右の銘は「おもしろきこともなき世をおもしろく」。前日は自転車で長距離を走ってきたばかりで、「膝が筋肉痛で立っているのが不安」と笑います。
質問タイムでは、留学先での研究テーマや、これまで勤務してきた企業との関係などについて質問が集まりました。注目されたのは、「アカデミアと産業界の間にある空白地帯を埋めたい」という想い。企業とアカデミアの両方を経験した立場から、「教育と切り離された本気でサイエンスだけをやる場所が必要」と、新しい研究の形への期待を語りました。
岡本雅志さん(大阪大学)

医学部卒業後、5年間臨床医として働き、現在は大学院で研究に取り組んでいます。免疫とオルガノイドを融合させた「免疫複合オルガノイド」という新領域を開拓中です。また臨床医として外来診療も継続しており、「研究では孤独に向き合う時間が多い一方で、外来の現場では社会と繋がり、患者さんの役に立つ実感が得られる。その往復が自分の視点のバランスを保つ助けになっている」と語ります。
質問タイムでは、リンパ節などのリンパ組織のオルガノイドについて議論が展開されました。「オルガノイドモデルにおける固形臓器と免疫系のインタラクションは、今まさに報告され始めている若い分野」と岡本さん。iPSから免疫細胞を誘導する研究をしている人が周りに少ない中、独自の道を切り拓こうとする挑戦が伝わってきました。
笠原朋子さん(理化学研究所)

ヒト胚発生における「若返りプログラム」の解明に取り組んでいます。目指しているのは、老化を制御可能にすること。もともとiPS細胞から作製する腎臓オルガノイドを研究していましたが、その過程で慢性腎臓病に興味を持ち、老化研究へ。腎臓オルガノイドを手がけたのは、腎臓は20種類以上の細胞がある複雑な臓器で、当時は誰も作れていなかったから。「一番高い壁に登ろう」と考え、挑戦を決めたといいます。
質問タイムでは、老化研究の定義について議論が交わされました。笠原さんは「老化を定義することは非常に難しい。様々な時間的・細胞的・分子的階層で起こる現象が複雑に絡み合っており、単一の尺度では表せない」と説明。トランスクリプトームやエピジェネティックな現象で老化を定義するアプローチが印象的でした。
Ni Luさん(京都大学iPS細胞研究所)

幹細胞のエクソソームに含まれる環状RNAの研究に取り組んでいます。化学のバックグラウンドから、低分子を使ってRNAを制御する研究を続けてきました。分子生物学的解析や網羅的データを活用しながら、環状RNAが幹細胞の細胞機能において果たす役割を解き明かすことを目指しています。1歳半から9歳まで日本、その後アメリカ、ドイツ、アイルランド、中国を経て再び日本へ。趣味は天体観測と撮影で、「アマチュアですけど、そこそこやってます」と笑顔を見せます。
質問タイムでは、環状RNAの特殊性について活発な議論が展開されました。「通常のメッセンジャーRNAの半減期は4時間ほどだけれど、環状RNAは3日にもなる。安定性が非常に高い。また、この一種の分子は、転写制御をはじめとする遺伝子発現制御において、多様かつ多彩な機能を担っている。」とNiさん。リニアRNAと配列が同じため検出が難しいという技術的な課題や、がんや神経細胞の発生との関連についても説明し、この新しい分野への関心を集めました。
松田佳祐さん(九州大学)

生物の形態形成を駆動する力学原理の解明に取り組んでいます。カブトムシのツノ、海ブドウの形、折り紙など、一見バラバラに見えるテーマですが、すべて「形がどうやってできるか」という問いでつながっています。力学シミュレーションと実験を組み合わせた独自のアプローチで、「おもろい研究」を追求中。所属学会には「折り紙学会」や「交通流数理研究会」も含まれ、「個と集団の関係性」にも興味があるといいます。
質問タイムでは、タンパク質以外で形を変える実験について注目が集まりました。「マグネットビーズを打ち込んで磁石で接着を誘導すると、新しい突起ができる」という実験例に、フェローたちも驚いた様子。分子生物学とは異なる力学的アプローチの可能性が、新鮮な刺激となりました。
専門用語が飛び交いながらも、お互いの研究への理解を深めようとする姿勢が印象的でした。異分野の視点が新しい気づきを生むことを実感する時間になりました。初対面とは思えないほど打ち解けた雰囲気の中、「まだまだ話したりない」という声が自然と上がります。

若手研究者が抱えるリアルな課題
休憩を挟んだ後、座談会のテーマは若手研究者が直面する研究環境の課題へと移りました。孤独感、協働の可能性などを巡り率直な言葉が飛び交う中で、彼らが抱える共通の悩みと、理想の研究環境への思いが浮かび上がります。
孤独感とコミュニティの価値
「研究室にいるだけだと孤独を感じがち」という岡本さんの言葉に、他のフェローたちも深く共感していました。特に基礎研究になるほど、その傾向は強まります。笠原さんは「疾患研究の場合は患者会での発表など、社会とのつながりを感じられる機会があるけれど、基礎研究になればなるほど孤独を感じることが多い」と指摘しました。
独自性の高いテーマに取り組むほど、研究内容が理解されにくく、気軽に「壁打ち」できる相手も少なくなります。特に女性研究者にとっては、ロールモデルの少なさも課題です。だからこそ、同じように挑戦する仲間とつながり、課題を共有できるコミュニティの価値が、繰り返し語られました。

「人と会う」ことで生まれるアイデアの連鎖
孤独という課題の一方で、人とのつながりがもたらすポジティブな側面も語られました。松田さんは「異分野の研究者とディスカッションすることで、インスピレーションがもらえる。産業界の人はもちろん、分野を超えた折り紙好きといった方々とも話したい」と、多様な交流の重要性を強調します。
Niさんも「学会や他分野の話から、新しい環状RNA研究のアイデアを得た経験がある」と語りました。専門外の視点だからこそ、思いもよらない発想につながる。人と会い、話すことが、研究を加速させるカギになる。そんな実感が、フェローたちの間で共有されていました。
競争から協働へ:「バンド」形式の研究スタイルの可能性
日本の研究スタイルについても、興味深い議論が交わされました。岡本さんは「ドイツは分業制で効率的。みんな9時5時で帰って、土日はあまり来ない。でも生産性はドイツの方が高い」と指摘します。Niさんは「中国は人海戦術。1人のPIに対して10人、20人の学生がいて、全部同じ方向で研究している」と説明しました。一方、日本は「1人で全部抱えている感じ」。
松田さんと岩本さんは、論文発表をゴールに数人で集まり、仕事が終われば解散する「バンド」のような協力的な研究体制の可能性について語りました。競争ではなく協働という新しい研究スタイルへの模索が始まっています。

Nova Science Fellowshipへの期待
こうした課題を抱える中で、フェローたちはなぜNova Science Fellowshipに応募したのでしょうか。研究費、コミュニティ、社会実装……それぞれが語る応募の動機からは、このプログラムへの期待が浮かび上がってきました。
挑戦的なテーマを支える「研究費」の必要性
応募の主な動機として、多くのフェローが「研究費の獲得」を挙げました。特に岡本さんは、iPSから免疫細胞を誘導する独自性の高い研究を進める上で、「自分だけが使う試薬をたくさん買わないといけない。1個何万円もするサイトカインなどを結構使う必要があり、ラボに申し訳ない気持ちもあった」と率直に語ります。独自のテーマに挑戦するほど、既存の研究費だけでは賄いきれない部分が出てくるもの。自分で研究費を獲得できれば、気兼ねなく研究を進められる。そんな切実なニーズが、応募のきっかけになっていました。
「孤独感」を打破するコミュニティへの期待
研究室での孤独感や、気軽に「壁打ち」できる相手の不足、こうした課題を解消する手段として、フェローたちはNova Science Fellowshipのネットワークに大きな期待を寄せています。
岡本さんは「ステラ・インベンター(※)のような確立した研究者の方々とつながれる。ディスカッションできるし、実際にコラボする可能性もある」と語ります。松田さんは「産業界の人はもちろん、自分の専門外の分野の人とも積極的に話したい」と、多様な交流への期待を語りました。笠原さんも「研究者同士はもちろん、セミナーや学会など、いろいろなものを一緒に作り上げていけたら」と、新しい場の創造への期待を語ります。コミュニティは、孤独を癒すだけでなく、新しいアイデアと場を生み出す可能性を秘めているのです。
(※)SS-Fのコミュニティに所属する比類なき独自の視点と想像力を持ち、野心的な科学研究に挑む研究者たち。
社会実装と構造改革への接点
研究成果を社会につなげるための接点も、重要な期待の一つです。岡本さんは「シーズ(研究の種となる技術や発見)を見つけたときに、どうトランスレーションしていくか。ベンチャーを作るにしても、そのプロフェッショナルな知見を得られるのは貴重」と語ります。Niさんも、ベンチャーキャピタルの視点を学びたいと期待を寄せました。
岩本さんは「サイエンスの構造を変えたい。自分一人ではできないことなので、自分の意見を聞いてくれる場があることが重要」と、より大きな視点での変革への期待を語りました。


今回のミートアップでは、5人のフェローたちが研究への情熱を語り合い、若手研究者が直面する課題について率直に議論を交わしました。孤独感や協働の可能性、研究費の必要性など共通の悩みを共有しながら、同時にコミュニティがもたらす可能性も実感する時間でした。異分野だからこその新鮮な刺激、そして「まだまだ話したりない」という声と共に、フェローたちの新たな旅が始ります。
Nova Science Fellowshipが目指すのは、「People-Centric」。つまり、人から始まり、人でつながり、人で広がるコミュニティです。単なる資金提供ではなく、研究者同士が刺激し合い、支え合いながら、それぞれの挑戦を加速させていく。フェローたちは、このプログラムの理念を体現していく存在です。
SS-FとANRIは、研究者コミュニティとの交流、産業界とのネットワーキング、社会実装に向けた支援など、さまざまな機会を提供していきます。第1期フェローたちの今後の活躍に、ご注目ください。
編集後記
初対面とは思えないほど打ち解けた雰囲気で、活発な議論を交わす5人のフェローたち。専門分野はまったく異なりますが、共通しているのは「新しい領域への挑戦」への情熱でした。第1期フェローたちの初ミートアップは、そんな可能性を予感させるものでした。