Stellar Lab Radio 第1回 ゲスト:武部貴則さん
iPS細胞から臓器をつくる。そんな未来の医療を現実に近づける挑戦を続ける研究者がいます。今回のStellar Lab Radioでは、世界で初めて“ミニ肝臓”を開発し、オルガノイド研究を牽引する武部貴則さんをお迎えしました。
Stellar Lab Radioは、「まだ誰も知らない、世界を変える研究」に光を当てるトーク番組。世界レベルで活躍するトップ研究者たちが、最先端の研究やブレイクスルーの裏側、そして未来へのビジョンを語ります。
後編では、マウスとヒトの細胞をめぐる“mRNA転送”の発見、現象ファーストの研究姿勢、そして研究者としてのルーツや哲学に迫ります。さらに、肝臓発生の常識を覆す最新の成果についてもお話しいただきました。
研究の現場から見えてきた「生命科学の新しい地平」を、ぜひお楽しみください。
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新しい挑戦と最近の研究について
Sean: 話が異なっちゃうかもしれないんですけど、そういう新しい挑戦っていうか、今までとは異なる領域でやるとか、新しいチャレンジをするということで、最近、武部先生が話せる限りで大丈夫なんですけど、ミニ肝臓から、その後に多分いろんな研究をコラボレーションして、いろんな方向性にいろんなものが進んでいるかと思うんですけど、最近何か自分にとって、これがユニークだなってミステリアスだなとか、これが最先端なんていうようなものは、今どのようなことをされているのかって聞いてもいいですか?
武部さん(以下、武部): 一番変わってるやつでいうと、やや複雑な説明になっちゃうんですけど、うちの研究室は誰も混ぜてないものをまず混ぜてみるっていうことから始めるんですね。意図はなく。その中の1つの研究でやったのが、マウスとヒトの細胞を混ぜてみようという研究をやってたんですよ。
基本的にマウスとヒトの細胞を混ぜても、みんな混ざらないんですよね。お互い種も違うし、集まり始めるのはお互い同じ種類の人たちだけだから、マウスとヒトの細胞っていうのがクラスターを形成して、コロニーって呼ぶんですけど、でっかい円状の形になって完全に分割されて別れちゃう。お互い相反というか、斥力が働いているというか、(そう)なっちゃうんだけど、その混ぜた後に、マウスと人を別々に回収をしてくると、なぜかマウスの中にヒトの遺伝子とかヒトの遺伝暗号が検出される。逆にヒトの細胞の方にマウスの、メッセンジャーRNAって言うんですけど、遺伝暗号が解析すると出てきちゃうんですよ。
これは今までの細胞の生物学の観点でいうと、ありえない。あり得ないので、一番あり得る理由というのは、このマウスと人を分けるというプロセスに、誤って一部でマウスの細胞が混じっちゃったんじゃないか、あるいは人の細胞がマウスにちょっとだけ混じっちゃって、それが検出されてるんじゃない?っていうふうに考えて終わり。終了なんですね、実験のエラーですと。
これを7年前ぐらいからやってるんだけど、何回やっても出てくるし、もしかしたらってこともあるかもしれないから、ちゃんと追ってっていって、シンシナティで始めたプロジェクトだったんだけど、見てみるとやっぱりすごいコンタミ(※contamination: 実験汚染)って言うんですけど、混ざっている可能性を考慮しても、ちょっと量がたくさんあるし、なんかもう情報入ってるんじゃない?みたいに思えるぐらいの量だったんですよ。なのでその後ずっといろいろ検討して、Natureとかにも出したんですけど、全部信じてもらえなくて。
そうこうしてるうちに、研究者が卒業して企業に就職しちゃってやべえってなって困ってたら、医科歯科大にいた、今大阪大に移ったんですけど、うちの講師の方がやってくれるっていうことで継続して、しかもその精度をめちゃくちゃ高めて研究してくれて、やっぱりその現象はあったってことが分かって、つまり、細かく言うとなんですけど、マウスの遺伝物質、メッセージ物質が、直接細胞を貫通して人の細胞の中に取り込まれ、そしてそれがタンパク質っていうものを機能する物質に変換されて、つまりマウスの情報が人に与えられるっていうことを見つけたんですよ。これは結構いい雑誌に今年出したんですけど、これが示すことは、普通はDNAっていうのがあって、そこからRNAというそのメッセージ物質になって、タンパク質になって、それが細胞の中で機能したり細胞の外に届いたりっていう機能をしていることが普通だしそれ以外のルートはないと思われたんだけど、隣にいる細胞がめちゃくちゃ影響するっていう可能性が出てきたんですよ。つまり、隣にいる細胞が悪いメッセージ物質を直接隣の細胞に注入してその性質を変えちゃうとか。そういうことが起き得るんじゃないかっていうことを提案した初めての論文なんです。
言ってみたら当たり前じゃないですか?類は友を呼ぶって言葉があって、似たような人がみんな集まって影響し合うじゃないですか。だから隣にすごいヤンキーみたいな人がいたら、ちょっとヤンキーっぽいコミュニティになったりとか、ちょっと根暗な人がいたら根暗コミュ二ティができたりするでしょう。そういう感じで、細胞たちも隣の細胞たちとかなり密に深い情報交換をしてるなぁっていう実は初めての実践で、こういうことが起きると、例えばがんとかも、がんの細胞が自分だけが悪いんじゃなくて、やっぱりがんの細胞が周りにも悪い情報とか送り出していたとかする可能性もあって、これまでのバイオロジーの考え方とか病気の捉え方を根底から変えるんじゃないかなと思ってて、メッセージを輸送するってことでmRNA転送っていう現象として報告をしたんですけど、なかなか信じてもらえなかったし、今でも信じてる人は嘘半分と思っているかも。これはすごい面白い研究だと思います。
mRNA転送とがん研究への可能性
Sean: マウスと人間って全然違うものであって、その間でもそのmRNAが転送されているとすると、がんである自分の細胞、自分の体の中だったらもっと可能が。
武部: そう。頻繁にやり取りしている可能性があるよね。
Sean: それが次の研究になったりすることがあるんですか?
武部: 今それをやりたいなと思ってる。がんとか。今回は、マウスと人を混ぜたから気づくことができたんです。なぜかというと、マウスと人の遺伝子は、暗号のパターンがちょっと違うからこれはマウスだ、これは人だって分けられるんですよ。でも、タンパクとかってほとんど変わらないんですよね。マウスと人だったら気づけたんだけど、人と人とかいう条件設定だと識別できないですよ。まず分けられないから誰も気づけないですね。調べようがなかったっていうのがこれまでの問題だったんじゃないかなと僕は思っていて、なので今やっているのは、それを例えばaという細胞から来たものは、ちょっとしたラベルとかタグとかがついてて、別の細胞に検出された場合には、aから必ず来たなっていうのが分かるようなツールを作ってます。それを作れば分けられるかなと思っています。がんとかの研究はその先のステップかなと思います。
ツール開発と論文の位置づけ
Sean: なるほど。そのお話を聞いて聞きたいなと思ってたのが、研究の中で結構ツールを作らなければならないというところがあって、そのツールを使うというものになるんですけど、まずツールを作ること自体がインパクトがありますし、そのツールの使い方でもインパクトがあるんですけど、例えば今のお話でその2つの論文が出るっていう世界観なのか、ツールだけだと論文にはならないから一緒にして論文にするとか、それってどうなってますか?
武部: これも研究室のスタンスとか考え方によります。うちは現象ファーストで考えてるので、面白い現象とか説明がつかない発見とか説明がつかないバイオロジーみたいなのが見えたらそれに向けてツールが必要になったらツールも作るっていうやり方。
でも今の流行りはツールが先です。ツールを作っておいて、それを振り向け先を新しいフィールドとかにしてあげようっていう流れがめちゃくちゃ流行っていて、例えばあのチャンザッカーバーグイニシアティブって、CZIっていうところがあるんですけど、そのチームなんかもまさにそれです。ツールを作って1個の細胞を全部メッセージ部数プロファイルしましょう。そのプロファイルができることによって分かるクエスチョンってどこかなっていうのをいろいろ探りながら面白い研究に仕上げるっていうやり方をしていて、たぶん世界はどっちかというとそっちの方ですね。ツールデベロッパーの方が多いです。ただ難しいのは、ツールを作ったっていうのはいい論文に絶対にならないんです。
なんでかっていうと、CellとかNatureとかScienceとか、いわゆる一流雑誌っていうのは、インサイトとか新しい発見に対して価値を重きを置いているんですよ。ツールっていうのはあくまで何かを明らかにすることだから、その明らかにできたことがどれぐらい面白いのかっていうことを評価をしてくるのでツールを作ったっていうのは一流誌では論文にはならないです。
だからツールデベロッパーも面白い領域をやっぱり見つけなければいけないっていうのは、あるんですけど。
チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)について
Sean: なるほど。チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)というような組織は、論文をたくさん出そうとしてるっていうことではなく、病気を全部治したいからっていうところで、そのツールにフォーカスしている部分があるという解釈ですが……。
武部: どうでしょうね。組織のミッションはそうだと思うんですけど、実際にいる研究者はそこまで考えている感じではないんじゃないかなと思うんですけど。やっぱりどうしても大きいビジョンみたいなものと我々の地に足ついた研究ってだいぶ離れてるから、やりながら、そのミッションに近づけていくみたいなことはあると思うんですけど、最初からミッションドリブンに、病気を撲滅するみたいなことをずっと思いながら研究してツールを作ってっていう感じでもないような気はしますけどね。
“現象ファースト” の感性
Sean: なるほど。面白いですね。逆にその現象ファーストっていうか…。
武部: そうなんですよ、これがね、バイオロジーとか医療の面白いところで、ほとんどの現象っていうのが分かってないんですよね。なんでこうなるんだろうっていうのが分かってないからその現象となぜっていうところに対して一歩踏み込んで、何かクエスチョンをぶつけられるかどうかっていうのが僕は多分一番大事な研究の感性だと思いますけどね。
例えば今日ショーンはなんでこの服着てるんだろうとか、この家はなんでこのサイズのガラスをここに貼ったんだろうとか、いろいろ身の回りにある何か違和感とか、自分が興味を持ったことに対してクエスチョンをつけられるかどうかっていうのはすごい大事で、だいたい現象っていうのはあるんですよ。身の回りに面白いことって。だけど、それをただ見逃してるっていうケースが多くて。
うちのラボミーティングとかでも、ネガティブデータで全然面白くなかったです。こういう結果でしたって。いや、ちょっと待って、こう見て、こういうふうに解釈したら面白いんじゃないの?とかって言うと、考えてもなくて、これをプレゼンして良かったですみたいな場面がすごく多いんですよ。だから、トラディショナルな考え方とかレンズに合わせて現象を見ちゃうと、そもそも現象すらつかめないっていう感じになっちゃいがちなので、そういう世の中に落ちているものに対しての何らかの好奇心、興味の対象として見る目みたいなものがあった方が本当はいいのかもしれないですね。
デザインと研究の共通点
Sean: なるほど。好奇心を忘れずにっていうところもあるし、そもそもなんで?っていうのがすごいデザイン的な質問の気がしてて。私がいつも聞くのが、デザイナーが一番好きな質問は、だいたい「そもそもさあ」から始まるっていうところがあって、そこがちょっと近いかもしれない。
武部: それは近いと思います。すごく大事な感性だと思う。
Sean: そう思うと、コミュニケーションデザインっていうところが、そういう共通点があるから、そこに興味を持っていらっしゃるのか、どうなのかってちょっと聞きたかったなと思う。
武部: そうですよね。ルーツとしては全然関係ないです。でも、最近そういうふうに思うようになってきました。大人になったなと思いました。
ルーツと父の病気の経験
Sean: なるほど。じゃあそのルーツは何なんですか?
武部: ルーツはすごい本当にパーソナルな話なんですけど、うちの父が39歳ぐらいの時に脳卒中で倒れてて、結構大変だったんですよ。今も生きて元気なんですけど、状況が悪くて、サラリーマンなんですけど、本当に毎晩のように飲み会やら深夜に帰ってきて、朝もう6時にはいないみたいな。体も酷使してたし血圧も250とか、太ってて。高脂血症とかいろいろ言われてて。でもうちの家系は医者はいないんですけど、医者が嫌い。
Sean: よく(武部さんは医者に)なれましたね。
武部: いやいや、結局医者になってないんだけどね(笑)
みんな医者に対してのトラストもないから、薬ももらってたけど、真面目に飲まないし、いろいろ聞くと、倒れるべくして倒れたなあみたいな感じだったわけですよ。その時のショックはそれなりにでかくて、大きくなるまで心の底にあったんですけど、医学部に入るじゃないですか。6年間割と真面目に勉強はしたんですけど、どこの教室、どこの先生のやり方を使ってもうちの父は絶対救えないなって思ったんですよ。脳卒中になったらやる手段は提供できるんだけど、脳卒中になる前に何か手段を提供しようと思ったら、止められたところがいっぱいあったと思うんですよ。食べすぎない、運動する、仕事をセーブする、家族と暮らすとか、いろいろできたことがあったはずなのに、そのどれにもアプローチできないっていうのに結構ショックを受けて。なので学生時代からそういう手前の人たちを制するために何ができるかって思ったときに最初に取り組んだのがメディア広告。
医療課題へのメディア活用とその限界
武部: 新聞とかテレビを使って。当時も自殺がすごいFacebookで増えたとか、いろいろあったんですけど、メディアを使ってムーブメントを作れば変えられるかもしれないと思ってやったんですよ。それでうまくいったんです。実は、学生時代にいろんな医療の社会問題があったんですけど、例えば産婦人科。出産をしたいんだけれど、かかりつけ医を持ってないためにたらい回しって表現をされたんですけど、救急車が受け入れられなくて亡くなっちゃったっていう妊婦さんがいたんですよね。妊娠してた方が。それが衝撃的で結構当時すっごい大問題になってて、そういうのも解決できたらいいなと思ってメディアを使って、テレビとかNHKとかなんか新聞とか主要各社でいろいろPRもできたりとかしてムーブメントを作れたんですよ。なんですけど、これも結局1カ月で終わるなぁっていう。
その時また敗北感を感じたんですよ。医学部の先生が全然できないことができたって最初は嬉しいなと思ってたんだけど、そのムーブメントもモメンタムも長続きしないから、これはメディアじゃないんだと思って。そこからもうちょっとクリエイティブとかデザインの力でずっとそういうことをやり続ける人が育たなきゃダメだなと思うようになったんですよ。つまり病院に来て医療行為をして、そこで終わりじゃなくて、その手前もその後も何らかの生活でのタッチポイントで介入できる専門家がいて、そしてその人がちょっと医とか健康という目線を持ってるっていうのが必要だと思い始めて。そんなこんなしてたら、電通と博報堂から提案募集みたいなのが出てきたのをなぜか当時50歳の父が見てて、R25に電通と博報堂がなんか募集してるよ。お前なんかクリエイティブデザインとか言ってたからいいんじゃないの?って言われて応募したんですよ。国家試験中つまらなかったんで。それで採択されて、いろんなクリエイターとかデザイナーとつながるようになって、広告代理店ってそういう人がいっぱいいるので。そこからできることが結構あるなっていうところでいろんな仕事をしていったら、2018年ぐらいから横浜市内の母校の医学部がなんかやった方がいいよって言うのでセンターを作ってくれて今に至るっていう感じ。だから全然ルーツは違う。
方法論の共通点
Sean: なるほど。ルーツが全然違うんですけど、目指そうとしているところとか、視野とかいうところがすごい近いから。
武部: やり方のプロセスに似てるかもね。やってない領域を見つけながら、それを誰と組めばできるんだろうみたいな。そういう目線で組み立てていくその手法自体はすごい似てると思う。
最終的に目指すものは何か
Sean: なるほど。聞くと、いろんな研究されたりする、デザインのところもあったりする、国をまたいで影響を及ぼしているっていうことがあって、さまざまな活動の中で最終的に何をしたいのかっていうような質問になっちゃうんですけど。どこを目指して、いろんな道が1つのところに来るようにしたいのか、もししたいなら、それは何なのかっていうところが気になっていて。
武部: そうだよね。いつも言われて、結構毎回言うことを変えてるんですよ。例えば、去年ぐらいまでの3年間は、僕はマイ・メディシン(my medecine)っていうのを実現したいんだ。1人1人のための自分のメディシンっていうのを、世界中の人がみんな持てるようなマイ・メディシンっていう状態を実現するためにアプローチを多角化してますっていうふうに説明して、プレゼンもしてたんだけど、なんか違うなと思い始めて、今は、ワクワクしたり、面白いなって自分が思うようなことをやる。それを一番いい形で、そしてインパクトのある形で、世界に発信をしていくっていうことをやり続けるっていうモチベーションを持ってます。
結局、時代も変われば面白さもいろいろ移ろっていくものだし、今の時点で決められる未来に対して僕がコミットするっていうのは、なんかちょっと違うなと思って。そういうのは別にGAFAMがやればいいじゃんとかね。もっとできる人がやればいいと思うんです。いわゆるそういうイノベーションっぽい世の中のためにこうなってほしいとか、そういうのはもちろん、なってほしいとは思うんだけど、そこをやるのは自分じゃないなっていうふうに思い始めてるので、やっぱり自分の身の回りにある現象とか、面白いことっていうのを、自分は価値づけて、面白く世の中に発信していくっていうことをやり続けていくというふうに考えています。だからそんなにないですね。
Sean: でもやっぱり、そもそもなんでこれがあるのかと、現象を見つけたいとかいうような部分に感じて、探りたい、それが面白い、その面白さが自分のモチベーションになってて、それでいろいろやっていく。
武部: そうそう。
肝臓発生の新発見
武部: もう1個だけ言うと、最近肝臓の研究をやってるんですけど、最近っていうかずっとやってるんですけど(笑)
いろんな臓器の発生とか成り立ちって、もうめちゃくちゃもう何百年と研究されているわけですよ。さっきなんで僕はこの話をしなかったのかいまだに後悔してるんですけど、一番面白い研究ってなんですかって聞かれた時に言えばよかったなって今思ってるんですけど、肝臓の発生の教科書を訂正しなきゃいけないっていう発見をしてるんですよ。肝臓ってすごい不思議な臓器で、膵臓とか脳とか結構大事そうな臓器じゃないですか。これを作らないように遺伝子改変するとかできるんですよ。全く欠損しちゃう動物。例えば、ある遺伝子を完全にデリーション(※deletion:削除)して欠損させると、全く脳ができないとか、全く目ができないとか、全く心臓ができません、肺ができません。
(でも、)肝臓だけは(それが)できないんです。失くすということができない。つまり1個の遺伝子とかいくつもの遺伝子をノックアウトしても、なぜか肝臓は絶対残っちゃう。それがなんでかなってずっと疑問だったんですけど、その理由は肝臓っていうのは特定の細胞から生まれてくるだけじゃなくて、複数のファミリーみたいなのがあるから。大体どこの臓器も、突き詰めると、1個の重要な細胞みたいなのがいて、その細胞を殺しちゃえばその先が全く行かないという状態。ほとんどの臓器はそういうふうに発生して作られていくんですけど、肝臓はそれが複数あるってことを発見したんですよ。だから、片方を閉じて、片方を消してしまっても、残ったやつがちょっと代償しちゃったりとか、逆もしかりで、だから肝臓だけ遺伝子改変できないっていうことを明らかにしたんですよ。来週ぐらいに論文を投稿します。
Sean: すごいですね。
武部: 面白くない?だって教科書とかでもこれが正しいですみたいな感じで、医学部とか生物系の学部で教育されるテキストが、間違っているとは言わないけど全然足りてないっていうことが、今というこんなにいろんなことができていて何でもわかるみたいな時代でも、全然違いますよみたいなのがいくつもあるんですよ。これが医学とか生物の面白いところですよね。こんなファンダメンタルに毎日向き合っている臓器なのに分かってないんだと思ってすごい面白いなと。
クロージング
Sean: なるほど、面白いですね。ありがとうございます。まだまだ聞きたいところがたくさんあって時間が全然足りないということになってるんだけど、また来ていろいろ話を聞かせてもらえるといいなと思ってるんですけど、今回は一応一話目っていうところでここまでにして、本当にありがとうございました。
武部: はい、ありがとうございました。
Sean: ありがとうございました。
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