Stellar Lab Radio 第4回 ゲスト:谷内江 望さん

生命は、どの瞬間に形づくられ、どのような過程を経て複雑な存在へと育っていくのか。
私たちは本当に、「生命の中で起きていること」を見ていると言えるのでしょうか。
細胞や動物を研究するために、壊し、止め、その一瞬を切り取る。
生命科学は長らく、そうした“スナップショット”によって進んできました。
しかしもし、生命が動き続けるその内側を、壊すことなく記録できたとしたら。
その先に、まったく新しい生命理解が開けるかもしれません。
今回のStellar Lab Radioでは、細胞の中に“ビデオカメラ”をつくり、DNAそのものを情報メディアとして使うことで、生命の営みを時間軸で捉えようとする研究に挑む、University of British Columbia 教授/大阪大学 特任教授の谷内江 望さんをお迎えしました。
前編では、なぜ生命科学は「壊さなければ観測できない」のかという根本的な問いから始まり、DNAイベントレコーディングという革新的な技術の着想、分野を越えて“生命のカメラ”を組み上げる研究スタイル、そして研究を率いるビジョンまで。
「生命を記録する」という新しい視点が、私たちの生命観をどのように変えるのかを探っていきます。
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生命科学の根本的な課題:なぜ私たちは「壊さなければ生命を観測できない」のか
谷内江:できるだけインパクトのある技術を作りたいなと思っていて。一つ、生命科学の分野で問題なのが、例えばマウスは実験動物研究に使うんですけど、マウスの脳を調べたいと思ったらマウスを殺してしまうんですよね。
殺して、その時点のスナップショットは取れるんですけど、細胞の中でどういうことが起こっているかを見ようとすると、細胞も壊さなきゃいけないんですよね。壊した瞬間のことはすごくハイコンテンツな情報が手に入るんですけど、壊す前にどうなっていたかとか、壊すことがなければマウスが将来どうなっていくのかみたいな観察は絶対にできないんですよね。
量子力学のシュレディンガーの猫みたいに、蓋を開けた瞬間の観測はできるけど、その前やその後のことはできないっていうのが、当たり前に聞こえるかもしれないんですけど、生命科学の問題だなと思っていて。
それを解決するために、細胞の中にビデオカメラみたいなものを入れて、細胞の中でこういうことが起こっていますよというのを観察して、今もここでも撮影していますけど。
レンズを通して何が起こっているのかを見て、そういった情報がハードディスクの中に書き込まれていく細胞を作ることができて。
その細胞がマウスの受精卵で、そこからマウスが出来上がっていけば、一つの細胞からマウスが出来上がっていく様子がどうなるのかとか、究極的には猿とか牛とか、倫理的に許される範囲で、実験できる限りの動物モデルで理解して、人間や動物の体の複雑な成り立ちを調べたいなと思っています。
だからそういう技術ができると、すごくいろんな人のために役に立つかなと思ってやっています。
苔口:なるほど。ありがとうございます。これから深掘りしていきますね。いろんなキーワードをいただいたと思うんですけども、最初に伺ったのがツール作りとおっしゃっていて。
バイオテクノロジーというと、イメージとしては新しい薬を作るとか機械を作る印象が強いですが、他の研究者が使うツールを作っているという認識で合っていますか。
谷内江:はい。
苔口:それは分野として大きいものなんですか。それとも谷内江さんが中心でやられているものなんですか。
谷内江:十年前にこういうことをやりたいなと思って始めた時は、たぶん僕とアメリカで研究室が同時に似たようなことを始めた人たちがいて、まだコミュニティは小さいですけど。
そもそもできるのに後十年以上かかるんですよね。だから手を出しにくいのかもしれないですね。でも本当に最先端だと思います。ロケットを飛ばすみたいなプロジェクトですね。
苔口:おお、すごいですね。火星に住むのとどっちが速いですか(笑)
谷内江:それは俺らの方が速いです(笑)
細胞の中に“ビデオカメラ”をつくる:DNAイベントレコーディングという発想
苔口:二つ目のキーワードがビデオカメラというふうにおっしゃってて、細胞の中にハードディスクとして記録してしまうということなんですか?
それはどういったことなのか、少し詳しく教えてもらえませんか。
谷内江:僕たち人間の体にはDNAを持っている細胞が約五兆個あります。DNAはATGCの四文字の文字列なんですよね。コンピューターって0と1のビット配列を使って情報のストレージとかを管理するじゃないですか。
僕たち生命はATGCっていう文字列を使って、人間の体がどうなるか、マウスの体がどうなるかという情報のブループリントがそこに書き込んであるんですよね。
所謂、それも情報ストレージメディアなので、DNA を情報記録媒体として、DNA に観察した情報を書き込んでいくみたいなようなことを考えています。
苔口:なるほど、DNAそのものがメディアだと考えてらっしゃるんですね。その発想は面白いですね。
谷内江:例えばヒトのゲノムは30億文字なんですけど、750メガバイトなんですよ。これすごいことで、750メガバイトの中に、苔口さんがどうなるかっていうのが書いてあるんです。その人がどうなるかが書いてある。
皆さんが生まれてから、こう一つの受精卵から出来上がるまでのインストラクションって750メガバイトに全部書いてあるんですよ。
あといわゆる物理法則の組み合わせで、すごいことですよね。だって iPhone なんて今250ギガバイトとかでしょ。だからそれの100分の1とか、ここの電話に入ってる100分の1ぐらいの情報で。
苔口:何百人分ものストレージが記録できるということですね。
谷内江:まさにそういうことです。はい。
苔口:おもしろい。そういうふうにDNAをストレージとして使うっていうのは、割と普及している考え方なんですか。それともそれ自体が。
谷内江:僕の記憶がちゃんとしていれば、1999年に高校生がNatureっていう一流誌に、ニューヨーク大学の教授の先生とコラボレーションして、高校生がDNAに人工的なメッセージを書き込むっていう研究を初めてやって。
Natureっていう雑誌に載って、それが結構センセーショナルだったんですけど。当時はまだDNAを解読する技術とか、合成する技術ってのが大したことなくて、みんな、遊びで高校生がやってかわいいねみたいな感じだったんですよ。
僕はその後、修士の学生かな。2005年ぐらいにDNAにさらにそういうDNAに人工情報を書き込む。しかも、安定して書き込める、DNA ってすぐミューテーションとか変異が入って情報が壊れちゃうんで、それを壊れないように書き込むっていう技術をその八年後ぐらいに発表して。それは当時バズりましたよ。なんかニューヨークタイムズとかから取材来たんで。
苔口:へー!
谷内江:その後、その研究は飽きて、人工情報をDNAに書き込むっていう、遊び半分で僕はやってたんで、一回眠ってたんですけど。自分が2014年に新しい研究室を始める時に、ああ、そういえば今の時代だったら、ああいう人工情報をDNAに書いて、それを生物学に本気で持ってくるみたいなのができるんじゃないかなと思って始めました。
苔口:面白いですね。その高校生が当時、まあ、今だと25年経って大体40半ばぐらい。研究してるんですかね、その方は?
谷内江:知らないです(笑)夏休みの研究だと思いますよ。
苔口:学校の(夏休みで)・・・。すごい。でもそこから着想を得て、今また新しい分野を作られてるってことですね。
観測・記録・読み出しを一気通貫でつくる: 分子センサーと“生命のカメラ”の構造
谷内江:そうですね。
苔口:なるほど。ちょっと先ほどのキーワードに少し戻ると、あとはスナップショットで今は細胞を壊すしかないっていう話だったと思うんですけども。
それが少し意外ではありました。というのも、わりといろんな研究とかって、ちゃんと観察して見ているのかなと思ったんですけど、基本的にはもう壊すしかないんですね。
谷内江:そうですね。もちろん、その培養皿の中で細胞がむくむく育つ様子を観察したりはできるんですけど。例えばヒトのゲノムの中には 2万個遺伝子がエンコーディングされてるんですけど、2万個それぞれからタンパク質が出来上がったりするんですよね。
それが出来上がる様子を調べようと思うと、2万個の分子細胞の中に入ってるのを、2万種類入っているのを観察しないといけないので、それはさすがに壊してみないといけないですね。
もちろん壊さないでもいい観察ってあるんですけど、そういうのって往々にして得られる情報が少なくて、めっちゃハイコンテントな情報を取ろうとすると、やっぱ細胞壊したり、動物殺したりしないといけないんじゃないかなと思います。
苔口:それを防げるように、壊さなくても済むような、ビデオカメラのレンズとか記録媒体を作られているということですね。その記録媒体がハードディスクで、先ほどの「ATGC」だとすると、レンズっていうのはどんなレンズなんですか?
谷内江:カメラのレンズみたいなものではなくて、いわゆる分子センサーっていうんですけど、細胞の中でこういう分子がいたら、それと相互作用して形を変えて、DNAを書き換えにいくっていう、センサーとかそういうのを作ってます。
苔口:へえ。そのセンサーの、じゃあどういう反応をしたかっていうのが見えるので、それでこういうことが起きてるんだっていうのがわかるってことですか?
谷内江:そうです。もうちょっと勝手に喋ると、カメラのアナロジーをとると、カメラってレンズがあるじゃないですか。観測器、メモリーがあるじゃないですか。その観測したものをメモリーに書き込まなきゃいけないでしょ。だから書き込み装置っていうのが存在するんですよ。
最後は、メモリーに書き込んだそのビットの配列から映像を復元するっていう、読み出し装置があるでしょ。その四つが細胞の中でも必要かなと思ってます。
苔口:撮影スタジオのようなものを作るイメージですね。
谷内江:だから一気通貫っていうんですかね、日本語で。全部作るのって、ひとつのことにフォーカスする研究じゃないから、パッケージングです。これまで開発されてきた技術をうまくパッケージングしてカメラにする研究です。これまでいろんなすごい研究者の方々が開発されてきたものを、うまくパッケージングして、カメラにするみたいな研究になってますね。
夜中2時の図書室、CRISPRとの出会いが決定づけた方向性
苔口:なるほど。じゃあそれぞれ、カメラの部分は、観測器の部分はこの方ですとか、書き込む部分はこの方とかいらっしゃるんですね。
谷内江:例えばゲノム編集ってあるじゃないですか。ゲノム編集って例えば病気の、癌とかのミューテーションを、DNAのミューテーション変異を書き換えて正常な状態に戻すとか、そういうことが期待されてるんですよね。
本来は生きてる生き物の、DNAを書き換えたりする技術として開発されてるんですが、センサーをゲノム編集ツールにくっつけると、DNAを書き換えられるじゃないですか。書き換えられるんですよ、じゃないですかって言ってもわかんないかもしれないけど。だからそういう利用の仕方をしてます。
実は2014年にDNAイベントレコーディングをやりたいなと思ったきっかけが、西増さんいるでしょ?西増弘志先生。東大の先端研の。
彼がCellに、CRISPR-Cas9っていう、ゲノム編集ツールの構造を解きましたっていう論文を、当時、濡木理先生と、それからフェン・チャン(Feng Zhang)と一緒に発表したんですよ。その論文の中を、なんとなく見てて、同世代なんで、すごい人がいるなと思って。
僕はその時トロントに住んでいて、ポスドクで。マンションの中に図書室があったんですよね。僕今でも覚えてるんですけど、夜中の2時ぐらいに図書室に勉強しに行って、ラボから帰ってきて家族でご飯食べて、図書室行ってその論文開いたら、その構造のことが書いてあるんですけど、その構造を知るために、ちょっとずついろんなエンジニアリングがしてあって、ちょっと変えたRNA 分子を使った実験とか、いっぱい書いてあって。その論文、その夜中の間になんか5回ぐらい読み直しました。
それで、こういうことができるんだったら、人工的な細胞の中に回路として組み込んで、DNAイベントレコーディングみたいなことできるなって思ったんですよ。
苔口:その瞬間は面白いですね。それが2014年?
谷内江:はい、そういうこともできるなと思って、すごい嬉しくなって。夜中じゅう、ずっと西増さんの論文読んでたっていう。
西増さんのこと知らないんだよ、しかも。まだ会ったことなくて。
苔口:それはたまたま見つけたんですか?
谷内江:たまたまCellで見つけた。
苔口:そこから、どういうふうに発展していったんですか?
谷内江:そこからは、これができるなと思ったのはポスドクのときで。自分の研究室を持ったタイミングが、たぶんその数ヶ月後に来て。その時に日本に帰ってきて、グラント書いて、グラントいただいて、始めてみて。そのぐらいで西増さんに会って、その時は、憧れの西増弘志が目の前にいたけど、別にそんな論文読んだとか言わんかったけどね(笑)最近になって告白しました(笑)
苔口:どんな反応でしたか(笑)?
谷内江:嬉しそうにしてましたよ。
苔口:やっぱり論文を読んでいただけるっていうのはやっぱり嬉しいもの?
谷内江:ああ、絶対そうだと思いますね。しかも彼も後で聞いたら、あの論文は多分相当青春をかけたと言うので。
苔口:共同研究はしたんですか?
谷内江:いくつもしました。今でもしてます。
「それ、間違ってますよね」と言った学生:偶然の出会いが研究を加速させる
苔口:じゃあ、そこが、今のセンサーの観測器の部分、書き込みの部分ですね。他の方々っていうのはどんな出会いとか、どういったきっかけで始まったんですか?
谷内江:メモリーの読み出しは新しいアルゴリズムを考えたり、どっちかっていうと、その、DNAの配列を解読した後に、スーパーコンピューターを使って、その情報の復元をするみたいな部分なんですよ。
苔口:スーパーコンピューターを使うんですか?
谷内江:はい。もうちょっと、専門的な言葉で言うと、並列計算みたいなたくさんのコンピューターを使って、大きな問題を解くみたいな。一台のコンピューターでは扱いきれないような大問題を、百台とか千台のコンピューターを使って解くのが必要だなって思って。それはでも、こういう計算のアーキテクチャを作ったらいいだろうっていうのは頭の中にあったんですよ。
僕、その時たまたま東大の理学部で授業をしてて、学部三年生向けに。授業をしてたら、僕の教えたことを「それ間違ってますよね」って授業の後に言いに来た今野くんって子がいて。「あ、ごめん」「確かに間違ってるね」って言って。今野くんどんな子なんだろうと思って、期末試験終わった後に今野くんの成績を見たら満点取ってて。満点取れないように作ってるはずなんですけど満点取ってて。
こいつやべえなと思って「誰か今野くんのメールアドレス知らない?」ってナンパして、研究室に夏休みに来てもらって。そしたら今野くんが研究室に来て半年ぐらいでそれを作ってくれて。
苔口:すごいですね。それは理学的なところだったんですか?数学的なところ?
谷内江:今野くんは当時プログラミングをかじり始めたぐらいだったと思うんですけど、今はスタンフォードにいてスーパースターなんですけど。この子すごいなと思って呼んだら本当にすごかったですね。
苔口:すごいですね。いろんな偶然な出会いというか、間違ってるって指摘してきたから。まあ満点取ってたのも気になったと思うんですけど。それで気になったんですね。
谷内江:超気になりました。印象に残ってましたね。
苔口:ちなみにその間違ってた問題というのはミスだったんですか。設定ミスなんですか。
谷内江:ミトコンドリアの呼吸鎖っていうところを教えてて、呼吸鎖を回る電子の数を間違えてたっていう。
苔口:かなり詳細なところですね。
谷内江:はい。
苔口:指摘する勇気もある方ですよね。
谷内江:はい。
苔口:スーパーコンピューターの話が出てきましたが、AIは関係あるものなんですか。
谷内江:まだ関係ないですね。もうすぐ関係あるようになると思うんですけど。今野くんが作ってくれたフレームワークが最近AIにも役立ちそうになってきました。
研究室運営はスタートアップのファウンダー?デザイナー?
苔口:すごいですね。なるほど。こういったいろんな研究分野ってのをある意味一つの融合してパッケージしてまあ売り出すと、生命のビデオカメラを造っているという話でしたが、今一番足りてないところや一番力を入れているところはどこですか。
谷内江:足りてないのは僕の体力じゃないですかね。何でかっていうと、十年ぐらいかけてプロジェクトを作ろうとする一方で、研究室の学生や研究者は成長して外にステップアップしていかなきゃいけないじゃないですか。研究室の中には代謝があるんですよね。だから僕がしっかりビジョンを地に足をつけて見てないと、そんなことできないから。
新しい人が来るたびにビジョンを説明して、じゃあ君の得意なことはこういうことだから、君にはこういう部分をやってもらおうかな。君はもしかしたらそのビデオカメラの完成は見ることができないかもしれないけど、こういうところに関わることで、その部分については、それが新しい発見になったり、新しいプロダクトになるんで、そういう部品を君は発表してくれてもらって、っていう風になっていくんで、僕はなんかしっかり全部覚えて見てないといけないっていうのがあるのかなと思ってますね。
苔口:スタートアップの社長みたいな、ファウンダーみたいなイメージですね。
谷内江:そうなんですか?スタートアップの社長は見たことないけど。
苔口:やっぱりスタートアップのファウンダーの方がこういうものを作りたいっていうのはすごく強力なビジョンがあって。当然リーダーのレベルの方たちは多分ずっと残ると思うんですけども。やっぱり一生懸命一緒に作ってくれる方々っていうのは結構サイクルが早いので、常にビジョナリーなことを常に伝えていくっていうことがすごく。
谷内江:しかもアップデートしないといけないじゃないですか。僕らのフィールドもめっちゃいろんな技術がどんどんどんどん出てくるんですよ。研究室のSlackでも、毎日10本ぐらいこんな論文出たよってみんな教えてくれて、それをちゃんと目を通して、斜め読みでもいいから、ちゃんと頭に入れとくのはすごい大変です。
苔口:確かにイメージとしては他の研究分野ですと、例えば創薬ですと、例えば肝臓の、ここを治したいから、っていう、深掘りしていくイメージが強いんですけど、谷内江さんのようにいろんなパーツを見て、一つの製品を組み立てていくとなると、CPUが新しいのが出たとか、書き込む技術がアップデートされたとか。すごく見る幅が広そうですね。
谷内江:しかもこの部分一生懸命作ってたのに、そんなのより圧倒的にすごいのが出てきちゃったとか。
苔口:そういったのって最近あるんですか?
谷内江:日々ありますよ。やっぱり、それに関わって開発してる人たちが学生が一番インパクトを受けちゃうじゃないですか、そういうのがあると。でもそれを、完全には無駄にならないように、あるいは少し、方向性を転換して、ピボットして、また新しいインパクトを作るようにデザインし直すとか、そういうのも仕事かもしれないです。
苔口:かなりデザイナーに近いですね。
谷内江:コンセプト作ってる人みたいな感じです。
苔口:だから今、伺ってたの思ったのは、やっぱりアップルみたいな会社かなと思って。例えると、iPhoneとか、まあ革新的なパソコンを作ってきましたが、基本的には製造って自分たちであまりしないじゃないですか。世界中のいろんなところを回って、一番いい素材とか、例えば日本にも来て、日本のガラスを使ってとか、チップをあの台湾から使うとか、日々それぞれがどんどんどんどんアップデートされてくから、どれが最適解なのかわからないという、そんなイメージを持ちました。
谷内江:合ってます。世界中から最適な技術を組み合わせて作る感じです。
バウンダリーを作るのが嫌い!ラベルに縛られない姿勢
苔口:先ほど生物学っていう話もされてたと思うんですけども、新しい分野になっていくものなんですか?イメージとしては。いろんな、領域をまたぐようなイメージがあるんですけど。超生物学っていう言葉も前に使っていらっしゃったと思うんですが。何と何を超えるような学問なんですか?
谷内江:それはむずかしいんですけど、僕、そもそも生物学とか理系、文系とか、物事に壁を作ったり、バウンダリーを作るのが嫌い。だからあんまり自分が何の研究者か考えたことはあまりないですね。そういうラベルを自分につけるのが好きな人いるじゃないですか。僕はこの研究、こういう何なに分野の研究者です、っていうのを好きな人いるじゃないですか。メンタル安心できるのはわかるんですけど、でもそこにはまっちゃうじゃないですか。だからそういうのをなんか言わないようにしてます。
苔口:なるほど。逆に、どういうふうに自己紹介するんですか?
谷内江:自己紹介するときは、生命科学の研究者ですって言うかもしれないですね。
でも実際にやってるのは生命科学のことが多いですけど、あと生命科学のためになろうとしてるけど、結構いろんなことに、関わらなきゃいけない仕事だなとは思ってます。
苔口:なるほど。でも面白いですね。逆にその、領域にはまらないからこそ、横断的なものを作ったりとか、ディスラプティブっていうところでは、私たちSS-Fのやりたいことに関してもすごく近いですね。
谷内江:応援してください。
苔口:ありがとうございます。これまでで思い出深いチャレンジはありますか。それを乗り越えた瞬間、どんなことが起きたのか。
谷内江:チャレンジはあまりないですね。何でかっていうと、僕らって発見をするっていう仕事じゃないんですよ。作りたいものを知ってるから、そこにどういう道を計画的に作ってたどり着くか、みたいなゴールがはっきりしてるんですよね。だから、チャレンジをないようにするのも仕事なんですよ。いっぱい道を準備しておいたりとか、その迂回路を作っておいたりとか。
よくだから、研究室の皆さんは、これもこれもこれもこれもやろうよって言って、将棋みたいなもんだと思うんですけど、その何十手先を見て、これもこれもこれもやって、一応その先々のことを考えて投資しておこうよっていうと、まあやってる本人たちからすると、そんな色んなことバラバラ手出してどうすんの?みたいな反応も返ってくるし、でも僕としてはぜーんぶそれを説明する時間もないじゃないですか。だから結構乱暴にあれもこれもやっておいてね、みたいな。これをやったら面白いよみたいな、いいことあるよみたいな、適当な感じで言うんですけど。でも、それって先々のことを考えて手を打っておくと、なんていうのかな、袋小路にはまって、絶対前に進まなくなるみたいなことはないのかなと思います。
でも僕が、ちゃんと現場の人たちのことをわかってないだけだと思うんですけど、同時に、彼ら自身はベンチの上でピペット触って実験してるじゃないですか。日々絶対彼ら自身はチャレンジがあって、それを乗り越えたときのすごいうれしくて、お酒を飲みに行くとか、そういう日も彼らの中にあると思うんですけど。僕の中にはないんですよね。それも寂しいんですけど、僕も実験してたときはそういうのが毎日あったんですけど。
北米と日本の研究文化:教育・対話・研究環境の違いから見えるもの
苔口:今一番喜びを感じるのはどんなときですか。
谷内江:それはもうみんなが成長していく様子ですかね。間違いないですね。
苔口:大学生だと何年生ぐらいから今いらっしゃるんですか。
谷内江:二年生ぐらいから来ることもあります。
苔口:長ければずっと院生になって。
谷内江:それはね、日本はそうなんですけど、UBCとか北米の大学の場合は、学生は絶対修士に行く時に、あるいは博士課程に行く時に研究室を変えますね。
苔口:そうなんですね。それはルールなんですか?それともそういう慣習?
谷内江:ほぼルールですね。例えば東大学部で行って、修士で行って、博士で行って、そのまま助教になって講師になって、准教授になって教授になるみたいな。それはすごいトキシックだとされています。あるいは不健康だとされています。
いろんな理由が多分あると思うんですけど、例えば大学で教授を雇うみたいなときあるじゃないですか。教授の採用の審査をするみたいな。その人の業績が例えばめっちゃすごかったとしても、それはその人の元ボスがすごかっただけかもしれないじゃないですか。でもいろんな大学を渡り歩いて、いろんなところで成功してる人って、その人の力ってすぐわかるじゃないですか。だから多分そういう観点もあって、みんないろんな分野のことを、あるいは違う場所に行って活躍しようっていうのにフォーカスしてますよね。
苔口:面白いですね。そこはやっぱり一つの大きな日本と、カナダの違いですか?それとも北米ですか。
谷内江:ヨーロッパも一緒だと思うんですけどね。
苔口:逆にずっと一緒にいるっていうのが日本の特徴。
谷内江:アジアの特徴じゃないですかね。
苔口:アジアですか。なるほど。なんかその他でも、やっぱりカナダと北米と日本で違うなって感じるところってありますか?特に研究においてです。
谷内江:向こうの子の方がちゃんと勉強せずにいろんなアイデアを出してきます。
苔口:どういうことですか?
谷内江:なんか適当に考えついたことでもどんどんどんどんポンポンポンポンこうこんなこと思いついたぜみたいな感じで言ってきてくれますね。
苔口:それはポジティブな意味で。
谷内江:ポジティブな意味とネガティブな意味。
苔口:両方で。
谷内江:もうちょっとちゃんと調べてきて、最近 ChatGPT に聞けばわかるのになみたいな。でもそれいいことです。どんどんそういうの出してほしい。日本は皆さんすごいしっかり勉強されますよね。先生よりもよく物を知ってる子たちもいるし。でも超シャイだなと思いますね。いいアイデアがあったとしてもなかなか出てこない。シャイじゃない子もいるんですけど。
例えば今僕、カナダでは年間78時間ぐらい授業するんですけど。週三回授業してるんですよ、月水金の朝。毎回十人ぐらい授業が終わった後に黒板の前に並んで質問しに来ます。みんな元気が良くて教えるのも楽しい、だから。
苔口:日本だと?
谷内江:日本の大学って通われてましたか?通ってないですか?
苔口:通ってました、一応。
谷内江:みんなさあなんか机見てない?すごい一生懸命先生たちと喋ってるのにさ。机見てるんですよね。何見てるんだろうなと。チラッチラッと顔を上げてくれるけど。あれ悲しいんですよね。
苔口:かなりアクティブな対話がお好き。
谷内江:さっき言った、今野くん。あの人多分その三十人ぐらいいる授業で、三、四人ずっと顔上げて聞いてくれてる人がいるんですけど、彼顔上げてずっと聞いてくれる子でしたね。日本の中にももちろんそういう人っているんですけど、だから僕の話はなんか集団の平均としての話なんですけど。やっぱなんかみんな大人しいな、結構パッシブな悪口ですけど、パッシブに先生の言われたことをはいわかりましたってやるのが得意なのかなと思います。
苔口:今カナダにいて、今日研究されて何年ぐらい経つんでしたっけ。
谷内江:2020年の9月に移ったので、5年ちょっとでしょうか。6年目か。
苔口:その中で、実際に今お話しいただいたのが、対比っていうのはなんかどこから来るものなんですかね。大学生になってからじゃないと思うんですけども。だって日本だってすごく一生懸命勉強するじゃないですか。高校生まで頑張って大学入って。もちろん北米もすごく大学入試自体は厳しいと思うんですけども。
谷内江:でもなんかその自分の子供たちが学校に通ってる様子を見ると、娘は高校生なんですけど、授業の中で友達と何かビデオを作ったりとか、お互いのその文化的な背景とかバックグラウンドを喋ってるビデオを作って発表会やったりとか、息子もなんかパワーポイントとか使って、なんかいろんなプレゼンを作って発表するとか、なんかそういうのをたくさんやってますね。あとクラブ活動、中学校、高校からすごい大事で。娘はバンド、オーケストラとかなんかそういうのやってるみたいなんですけど。なんかそういうアクティビティも、その机の上で勉強することだけじゃないアクティビティをすごい大切にしてる気がします。グループワークとか。
苔口:なるほど。今、谷内江さんも大阪とコロンビアの両方にいらっしゃると思うんですけど、マネジメントや研究スタイルの違いはありますか。
谷内江:あります。阪大のラボは始まったばかりで、2、3年経つんですけど、大人のラボです。アソシエイトプロフェッサーやアシスタントプロフェッサーが4人いて。学生がすごく少なくて、これからたくさんの人に来てほしいなって思ってるんですけど、ようやく安定してきたんで。
苔口:大人のラボというと学生さんはいないんですか。
谷内江:います。
バンクーバーのUBCのラボは、プロフェッサーは僕一人で、あとラボマネージャーがいて、テクニシャンが二人いて、あとは全部で十五人ぐらい学生っていう研究室で、僕はまだ全員とバイウィークリーで会うんですよ。でも、その大阪のラボは、スタッフのその准教授の先生とかが二人いたりとかするんで、彼らがもう結構自立して、自立してって当たり前ですけど、僕は結構電話でこんなこれやろうよって言って進めといてねって言って、二週間に一回か一ヶ月に一回どんな感じ?みたいな感じで聞くみたいな
苔口:なるほど。じゃあ割と自立してるんですね。
谷内江:あとUBCで困ったことがあったら、阪大のこの人がこうよくわかってるから、聞いときなよつってSlackでディスカッションするのを促しておいたりとか。
苔口:そもそもUBCと阪大は同じ研究をしてるんですか。
谷内江:違う研究をしてるんですよ。違う研究してるって言っとかなきゃいけないみたいなところもあるかもしれないです。でも違う研究してます。UBCは、いわゆる僕の中ではプロトタイピングラボで、そのステムセルとか幹細胞とか、それから培養細胞を使っていろんな回路の設計をして、その回路が動くかなみたいなのをやるのがUBCがまあ中心でやってること。阪大はそれを動物の中に入れて、実際に動物の中で動かすっていう、その研究モジュールを阪大の中に作っていて。とはいえ、まあ阪大の中でも、まあ別のそのセンサーを作ったりとか、UBCでやってないセンサーを作ったりとかやるんですけど。あと阪大のたぶんもう一つ大きなのは、森さんってもともと僕の研究室にいた学生だった人なんですけど、彼が今准教授で、AIのその研究モジュールを彼がリードしてくれていますね。
苔口:バンクーバーの方では、基本的には物作りをしてみて、それを実際に使うっていうのが阪大っていうイメージなんですね。
谷内江:阪大でも、そのマウスの中で動かすためのものづくりってのはあるんですけど。
苔口:なるほど。なんか研究スタイルについて、ご自身でこう、なんか異端児だって思うことってありますか?
谷内江:思いますよ。でもあんまりいい意味で思ってないかもしれないですね。僕、アホなんですよ。その、ものを覚えられないの。だから、なんか積み上げる研究ができないんですよ。僕あの、Googleが自分が大学生の時に、GoogleがGoogle作ってくれてなかったら、絶対に大学の先生なんかになれてないと思うんですよね。
苔口:どういうことですか!?
谷内江:学生時代ずっと成績とかクソ悪かったんですけど、数学以外。何も覚えられないです。記憶系がマジで弱いです・・・・(続く)
苔口:谷内江さんをゲストにお迎えして、お届けしているエピソードの前編はここまで。いかがだったでしょうか。そもそも、DNAを“情報メディア”として捉えることが新鮮で、生命ってなんだろう?とこれまで見方が変わる感覚がありました。
後編では、なぜ谷内江さんが研究者になろうと思ったのか、研究の世界へ飛び込んでいった原点、そして現在の研究にかける熱い思いまで、深く探っていきたいと思いますので、後編もぜひチェックしてみてください。
Stellar Lab Radio、まだ誰も知らない世界を変える研究について。
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