Stellar Lab Radio 第7回 ゲスト:洲崎 悦生さん

今回の Stellar Lab Radio では、臓器や全身を透明化し、一つひとつの細胞を3Dで可視化する組織透明化技術「CUBIC」を開発した、順天堂大学大学院医学研究科 主任教授の洲﨑 悦生さんをお迎えしました。
前編では、「なぜ臓器を透明にするのか?」という基本的な疑問から、これまで2Dの切片で見てきた生命を、3Dで「丸ごと見る」ことの意味、透明化の原理、技術開発における試行錯誤まで、身近な例を交えながら解説していただきました。
さらに、透明化した組織を撮影する顕微鏡、すべての細胞の空間情報を読み解く「セルオミクス」、がん組織を立体のまま捉える3D病理など、開発した技術が医療へとつながっていく最前線にも迫ります。そして、老化しないとされる小さな生物「ヒドラ」に着目した理由や、「老化しない生物を老化させる」ことで老化の本質を探る、逆転の発想についても伺いました。
これまで見えなかった構造を丸ごと捉えたとき、生命科学や医療はどのように変わるのでしょうか。透明化、顕微鏡、AI、病理、老化研究と、一見異なる分野が根っこでつながっていく研究の世界を、ぜひお楽しみください。
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研究を「つくる」だけでなく、世界に広げる
苔口:今回のゲストは、順天堂大学大学院医学研究科主任教授、洲崎悦生さん。洲崎さんは、「細胞を丸ごと見ることで生命を理解する」という新しい生物学を切り開いてきた研究者です。洲崎さんが開発されたCUBICは、臓器や全身を透明化し、一つ一つの細胞を三次元で可視化できる世界的な技術。これまでスライスして二次元を見るしかなかった生物学や病理学を「丸ごと臓器ごと見る」へ進化させ、世界中の研究者に利用されています。さらに現在は3D病理、AI画像解析、セルオミクス、創薬など、生命科学と医療の未来を大きく変える研究へと展開されています。今日は、そんな洲崎さんに最先端の研究についてたっぷり伺っていきます。では洲崎さん、本日はよろしくお願いします。
洲崎:はい、よろしくお願いします。
苔口:まずは洲崎先生、FAOBMB Entrepreneurship Awardを受賞されたとのことで、おめでとうございます!
洲崎:どうもありがとうございます。
苔口:素晴らしいですね。
洲崎:ありがとうございます。
苔口:これすごくレアな受賞なんですよね。
洲崎:実はそうらしいんですね。FAOBMBは、僕も知らなかったですけど、実はIUBMBですね、International UnionのMolecular BiologyとBiochemistry、つまり、分子生物学と生化学の学会の国際連合がありまして、それのアジアパシフィックブランチがFAOBMBなんですね。で、Federation of National Societies of Biochemistry and Molecular Biology in Asian and Oceanian Regionの略、FAOBMB。これが、数年に1回学会をやっていて、それに合わせて出されるアワードがいくつかあるんですけど、そのうちの一つがこのEntrepreneurship Awardということらしいです。
苔口:いや、素晴らしいですね。じゃあ3年に1回ってことで、これまで多分5、6人しか受賞してないような。
洲崎:記録だとそうですね。4、5回出ていて、1回が受賞者なしですか。
苔口:へー、すごいですね。これはちなみにEntrepreneurship Awardってことなんですけど、何に対する受賞だったんですか?
洲崎:これはですね、生化学か分子生物学に関わる新しい技術開発を、あるいはカッティングエッジな(革新的な)研究をして、かつそれをいろんな人たちが使えるように世の中に普及させたっていうところが評価対象になる賞らしくて、僕らがやってる透明化技術の普及の部分を評価していただいたのかなと思っています。で、あとこの受賞に関しては、実は大御所の先生方に大変過大な、過分な推薦状を書いていただいて、出していただいてるところもありますので、その後押しもすごく大きいと思います。
苔口:いや、素晴らしいですね。受賞式もあるんですか?
洲崎:そうですね。8月に香港でありますんで、はい。ちょっと香港に行ってくる予定になってます。
苔口:おめでとうございます。
洲崎:ありがとうございます。
苔口:はい。早速ですが、今世界中のいろんな研究者と共同研究されていますけども、最近ここすごかったな、ですとか、何か印象に残ってる場所ってあったりしますか?
洲崎:そうですね。海外はちょこちょこ行かせていただいてますけど、大きい研究所がどこもいっぱいありますよね。
苔口:はい。
洲崎:最近行ったとこでは、ロンドンのクリックインスティチュート(The Francis Crick Institute)がやっぱり一番衝撃的で、周りにディープテックがいっぱいある、GoogleとかDeepMindとか、Amazonもあったかな。そういうのが集まってるエリアに、もう本当に巨大な研究所がドーンと建ってて、あの規模は日本ではなかなかできないですよね。だから、品川の、キヤノンとかソニーが集まってるところに、ビル3個分ぐらい使って研究所作ってるようなイメージを想像してもらうといいと思うんですけど、結構衝撃です。しかも隣がなんだっけ、ハリーポッターとかの有名な駅。
苔口:へえ、結構都心にあるんですね。
洲崎:そうそう、ど真ん中にある。
苔口:そうなんですね。クリックインスティチュートですよね。
洲崎:そうですね。
苔口:クリックといえば、DNAの螺旋構造を発見した。
洲崎:はい。 その名前にちなんで作られてる。
苔口:そうなんですね。そこはどういうきっかけで行かれたんですか?
洲崎:僕が今アドバイザーをやっているAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)のイベントの一環としてちょっと訪問させてもらいました。
苔口:へー、すごいですね。一週間ぐらい行かれたんですか?
洲崎:その時は一週間ぐらいでしたね、はい。シンポジウム2件と、その間にいくつかのロンドン内のインスティチュートを回って、その一環としてそこにも1回お邪魔させてもらいました。
苔口:そこはGoogleとかがあるのは、やっぱりその研究、共同研究を目的としたことで?
洲崎:どうなんでしょうか。
苔口:たまたまですか?
洲崎:おそらくそういうエリアに、ディープテック系もまとめてるのか、もともとそういうエリアに、クリックインスティチュートを作ったのか、ちょっとそこの経緯は僕わからないですけれど。いずれにしろそういう生物学だけではなくて、最近のデータサイエンスとかAIとかいうとこも含めて、一番最先端の人たちが集まってるエリアっていうので。Natureのエディトリアルオフィスとかも近い。
苔口:そうなんですね。じゃあ本当に、生命科学というか、それに関わる人たちがもう集まってる場所なんですね。
洲崎:はい。
苔口:へー、すごい。また来週でしたっけ?カナダに行かれるって聞いて。
洲崎:そうですね、はい。このポッドキャストにも出た谷内江さんのところにちょっとお邪魔しに行きますけど。
苔口:いいですね。
洲崎:ステラも楽しみにしています。
苔口:はい、よろしくお伝えください。
洲崎:はい、わかりました。
3Dの全体像にすることで、何が変わるのか?
苔口:ありがとうございます。まずは洲崎さんの研究についてお伺いしたいんですけども、洲崎さんといえば、まずはCUBIC?が世界的にも有名ですが、これって透明化するっていう技術ですよね。
洲崎:はい。
苔口:そもそもこう、臓器を透明化するってのはどういうことなんですか?
洲崎:そうですね。いくつかの答え方があると思うんですけど、なんで透明化しなきゃいけないかっていうところがまずあると思うんですけど、僕らがやってるのは、要するにその3D空間生物学っていう、あるいは3D組織形態学の一部になると思うんですけど、生体組織はそもそも3Dなので、本来3Dで見るべきものだと思うんですけど、世の中の今の形態学とか空間生物学って、基本的には切片を切って見る世界なんですね。で、そこは実はかなり大きいギャップがあって。ただ皆さん、3Dの像っていうのを日常的に見られてないので、どういう情報が欠損してるかあんまり直感的にわからないと思うんです。ただ、何でもいいんですけど、ちょっとイメージしてもらうといいかなと思ってて。何にしようかな。例えば、自動車かなんかにしましょうか。自動車は苔口さんお好きですか?
苔口:はい、大好きです。
洲崎:じゃあですね、自動車をですね、こんな箱になってるでしょ?これを運転席から、後ろの後部座席にかけて、こう斜めにズバッと切った断面を想像してください。そうすると、多分最初に出てくるのが自動車の壁ですよね。壁はこうズバッと切ると線になりますよね。その後に例えばハンドルが、こう断面に引っかかったりするとハンドルは輪っかじゃないですか。輪っかの断面切りますから、あの丸になりますよね。丸が、まあ例えばこう輪っかの2箇所切ると、2個ポンポンとあると。で、その次に座席がでてきますかね。座席はL型ですから、それが斜めに切れてるので、斜めのL字型のこういうのが出ますよね。で、後部座席でまたこういうのが出ますよね。で、最後壁が出ますよね。この二次元の絵があったとするでしょ。これを苔口さんが見て、自動車ってこういうものだってイメージできると思います?
苔口:できないですね。
洲崎:普通できないですよね。
苔口:はい。
洲崎:僕ら知ってるから、なんとなくこの像を見て、「これ自動車だ」って言えば、「あ、自動車のここか」ってわかるかもしれないですけど、見たことない人、例えば、十八世紀の馬の時代の方とかがそれ見て、「これ何ですか?」って話になるじゃないですか。さらに言うと、その画像を見て、実はこの物体を、全体を見ると、そこにタイヤがついてるとか、エンジンがついてるとか、そういう本当は重要なものがいくつもあるわけですけど、それをこの点と線だけの二次元の画像から想像することは絶対できないんですよね。でも今の空間生物学ってそれやってんですよ。つまり二次元で見ているので、本来あるべき三次元的な空間の情報が、かなりの部分を失われていて、3Dを知ってれば2Dのイメージつくんですけど、2Dから3Dを再構成するってのは基本的にできないので。なのでやっぱり、3Dのものは3Dで見るというのがとても大事だっていうのが僕らが考えていることですね。
苔口:なるほど。
洲崎:はい。だから一次元増えるっていうものではなくて、いきなり見えてなかった構造とか細胞の種類とか、そういうものが3Dだといきなり見えてくるんですよね。
苔口:細胞とかを見る時ってどうしてもこう顕微鏡の下に置かないといけなくて。で、その時にはある程度こう切ったりとか小さくしたものを見るけども、それが実際には全体見れてないってことですかね。
洲崎:そうです、 はい。だから、その組織の中を見るには断面を作るしかなかったのが今までの顕微鏡観察だったんですけど、そこで出てくるのが透明化で、透明化すると何がいいかっていうと、光が中を通るようになりますよね。そうすると、レーザー光をシート状に広げて、つまり光で切片を作るような仕掛けを使って、中を切断面として見ることができるわけですね。しかも透明なので上から下までその切断面を動かしてあげると3Dの画像が撮れる。そういう理屈で三次元の画像を撮ります。
苔口:じゃあ今までは、立体のものがそもそも中がどうなってるか見えませんと。で、見るためにはもう
洲崎:切らないといけない。
苔口:2Dで切らないといけなくて、それで見てきたけども、それだとやっぱり情報が足りないので、初めから3Dのものを透明にして、それをもう新しい見方でレーザーとか使って見ようっていうのがやられてることなんですね。
洲崎:そうです。
苔口:へえ、なるほど。で、それはもともとどこから透明化したいっていう発想になったんですか?
100年前からある「透明化」技術の進歩
洲崎:歴史的なことを言うと、透明化の技術自体は100年ぐらい前からあるんですね。
苔口:そうなんですね。
洲崎:はい。結構古い技術で。ただ2000年代前後ぐらいにいくつか重要な論文が出始めて、例えば、アメリカのあのワシントン大学ですね、シアトルにあるグループとか、あと台湾のグループが、そういう透明化したサンプルを、顕微鏡で見るみたいなことを少しずつ始めて、2007年にウィーンにいるハンス・ウリヒ・ドットっていう先生が出した論文が一つあって、それは昔からあるライトシート顕微鏡という顕微鏡を使うんですけど、その光シートを作る顕微鏡ですよね。それも実は古い顕微鏡なんですが、それと透明化技術を組み合わせて、マウスの全脳とかハエの全身とか、そういう大きなものが丸ごと見えますよって論文を出されて、それが2007年ですけど、これが結構エポックメイキングな論文になっていて、その後に特にニューロサイエンスを中心に、透明化の技術がどんどん発展していったっていうのが2010年代になります。
苔口:うーん、そうなんですね。 最近かなり技術が一気に進んできたって印象なんですね。
洲崎:そうですね、もうほぼマチュレーション(成熟)してるかなと思うんで。それでも最近でもちょこちょこ新しい透明化法出ますけれど、ほぼ今世界中で使われているものは、そういう古い、もう2000年代にはできていたようなものであったり、そこから10年ぐらいの間にできてきたような新しいプロトコルの中で、メジャーなものがいくつか広く使われているという感じです。
苔口:その中で洲崎さんのCUBICっていう技術は何が新しかったり特徴だったりするんですか?
洲崎:カテゴリーとしてはですね、その透明化する方法に有機溶剤を使う方法と、あと水溶性の化合物を使う方法とがあって、有機溶剤を使う方法は古くからあるのと、すごく安定で早いんですね。透明化効率も高いんですけど、ライフサイエンスでよく使う蛍光タンパク質、GFPとか、そういうものがですね、消えちゃうことが多いんですね。そこを解決する目的で出てきたのが水溶性の化合物の一群で、特に最初の頃で、そこの問題に取り組んだのが、理研の宮脇先生たちのチームで、濱先生という方がScaleというですね、尿素をベースにした試薬を作られて、その古い有機化合物系の試薬だとGFPが全部消えちゃうけど、Scaleを使うと綺麗に見えますっていうので最初に出されてて。で、僕らがちょうど透明化に取り組み始めたのが、そのScaleが世の中に出るか出ないかぐらいのタイミングだったので、かなり早い時期に僕らもそこの後継に入れたという経緯があります。
苔口:洗濯洗剤みたいですね。
洲崎:あ、そうですね。おっしゃるとおりですね。はい。
苔口:それは実際何が起きるんですか?色が取れるのか、
洲崎:はい。物が透明であるというのは、要は物体の中を光がまっすぐ通るっていう状態で、光がまっすぐ通るというのは、物体の中で光が散乱しない状態なんですね。で、中にその光の散乱体があると光がまっすぐ通らないので反対側が見えない、つまり透明でないっていう状態になるんですけれど。だから光が直線上、直進していくような環境を作ればいいわけですね。で、その時に一番重要なファクターが、いわゆる屈折率というもので、なんでかというと、屈折率が違う界面で光は曲がったり反射したりします。で、これは中学校の理科の知識かもしれないんですけど。だから生体組織の中は、その屈折率が違うものがごちゃまぜ入ってるわけですね。で、一番違うのがやっぱり水と生体分子、タンパク質だったり脂質、油だったりっていうところが一番大きい界面で。だから、透明化する時って何をするかっていうと、まず水を抜くんですよ。で、水を抜いてそういう脂質とかタンパク質とかに近い屈折率の溶剤と置換するんですね。置き換えるんですね。そうすると透けるんです。で、それが透明化の基本的な原理になります。
苔口:うーん、なるほど。全体が同じ、似たような
洲崎:屈折率ですね。
苔口:屈折率にするっていうことなんですね。
洲崎:そうです、そうです。
苔口:そうなんですね。昨日ちょうど飲み屋で刺身を食べてたら、クラゲの刺身が出てきて、それがすごい透明で綺麗だなと思ってたんですけど、それはじゃあほとんど水とか。
洲崎:そうですね、クラゲの場合はほとんど水。
苔口:水だから。なるほど。
洲崎:だから、ただ僕らの体の場合は水が多分、数十パーセントぐらいの割合でしょうから、多くて7割ぐらいですかね。だから3割、4割はそういうタンパク質だったり脂質だったりしますんで、そういう状況だとやっぱりなかなか光が通らないです。
苔口:そっか。でも水を抜くってなると、結構細胞が壊れちゃったりとか、そういうのって気を使いますよね。
洲崎: そうですね。なので基本的にその現状の透明化の方法っていうのは、いわゆる組織科学の技術の一つで、ホルマリンで固定したサンプルを使うことがほとんどですね。で、透明化の一部では、もう少しガチガチに固めるというか、例えば人工ゲルを使うとか、あとエポキシ樹脂を使うとか、そういう方法を使って組織をガチガチに固めちゃって、この組織が壊れないように処理するという方法もあります。
苔口:なるほど。だからいろんなその技術が生まれるまでに結構大変だったと思うんですけど。
洲崎:そうですね、はい。
苔口:失敗とか試行錯誤とかどんなことがあったんですか?
洲崎:いや、それはもうなんか大変でしたよ。最初は本当にこう暗中模索というか、何をどうすれば透明になるかって全然わからないですし、試薬も基本的にはオープンクエスチョンなので、化合物山みたいな、何万種類っていうオーダーじゃなくあるわけですけど。だから、その中からある程度、宮脇先生たちが作られたScaleをベースにして、そのカテゴリーの化合物をまず集めるっていうところから始めて、それを組み合わせで、いろいろ試しながらやってたので、本当に机の上に試験管が何本も並んで、その中にネズミの脳みそが、何本も浸かってるみたいな感じで。もう日がな一日、こう、いつになったら透明になるんだって眺めてた日が何年も、2年ぐらい続いたかな。
苔口:そうなんですか。でもこれは絶対できるだろうって信じて。
洲崎:まあ前例がありましたからね。だから改良すればいいっていうのと、あと割と早い段階で、だいぶその透明化効率を上げるレシピというのが、僕と僕と一緒にやってたあの田井中先生ですね、今新潟大の脳研にいらっしゃいますけど、彼はもともと化学者で、彼と一緒にそういう化合物のスクリーニングをやってたんですけど、ある程度早い段階で、この化合物を使えばうまくいきそうだっていうアテがあったので、そこを最適化していくっていう感じで進めました。
苔口:その完成した時の感情ってどんな感じだったんですか?
洲崎:いや、もうやっとできたって感じですよね。だから試薬ができることそのものもそうですけど、透明にして何がわかるんだっていうところは、やっぱり早い段階から、当時僕が所属してた上田泰己先生のラボでみんなで議論していたところで、やっぱり最初の話でも出てきますけど、その 2Dを3Dにすることの意味みたいなのがあまりこうピンとこない方も、特に最初の頃は多くて。だからラボの中でも結構、透明にして3Dで撮ってどうするの?みたいな議論はありました。はい。
苔口:透明化されてるのは、今脳みそって話も出ましたし、他にもいろんな臓器を透明にしてるんですか?
洲崎:はい、そうですね。基本的には、CUBICもそうですし、全身臓器どこでも大体透明になります。
苔口:例えばこの生き物全体を透明にしてしまうってことも可能なんですか?
洲崎:できますできます。それは論文もあります。僕らも論文出してるし、ドイツのグループでそういう全身透明化みたいなのに強いグループがあって、最近はNatureとかに出てましたけど。
苔口:そうなんですか。すごいですね。
洲崎:全身透明にして、AIで神経とか免疫細胞を全身検索して、暇になったらどうなるみたいな、病気になったらどうなるみたいなのを出してる。
苔口:へー、伺ってるとやっぱり透明化っていうのはもう第一歩なんですね。まずは中身が見えるようにするっていう本当に第一歩で、それから次のステップに進んでいくっていうことなんですね。
洲崎:それはあくまで目的ではなくて手段なので、透明化というのは。
苔口:なるほど。で、じゃあ次に何が見えるか、見るためにいろんな技術も。
洲崎:そうですね。
苔口:次に研究されているってことなんですね。
洲崎:そうです。だからある種のパイプラインになってて、透明化っていうのは本当に入口なんですね。で、透明にするだけでは何も見えないので、特定の細胞だったり分子だったり構造だったりに色をつけるわけですよね。いわゆる染色技術、あるいは遺伝学的に先ほど説明したようなGFPで発現させて色をつけることもありますけど、何かしらの形でそういうふうにラベルをしないといけないですよね。で、その後に3Dで丸ごと撮らないといけないですよね。撮ったら、撮っただけではそれは写真なので、そこからやっぱり何か生物学的に意味のある情報を引っ張ってこないといけないですから、そうなるとこんな情報科学になりますよね。だから結構、コンビネーションというか、何をどう組み合わせるかっていうところが一番難しいところかもしれないです。
苔口:そういうことなんですね。確かに透明化したものを、写真をいくつか見させていただいて、すごく蛍光緑とか、いろんな色がついてすごい綺麗ですよね。あれは撮影した状態ってことですか?色がついて撮影されて。
洲崎:はい、そうですね。あれも色も擬似カラーなので、何色にでもできるんですけど。
苔口:あ、そうなんですか。
洲崎:元々の画像は白黒です。グレースケール。
苔口:あ、そうなんですか?
洲崎:蛍光画像なので、基本的にグレースケールで色ごとに撮っていく感じです。
苔口:そうなんですね。じゃあまずは本当に見たいものを透明化して、色をつけて、さらにそれをじゃあ撮影して、データ化して、そこでやっと使えるものになってくるってことなんですね。
洲崎:そうですね、はい。
苔口:で、それに対していろんな分野があって、最初透明化っていうのはどっちかっていうと、さっきおっしゃってた組織に関するもので。で、次が撮影となると、
洲崎:今度は顕微鏡。
苔口:顕微鏡の世界ですね。
洲崎:そうですね。
苔口:で、その後データの話になってくると。
洲崎:そうですね。
苔口:顕微鏡も結構たくさん、前ラボに伺った時にたくさん作られていたと思うんですけど、あれももう自分で自ら組み立ててる
洲崎:うちの場合はそうですね。市販機を入れてもいいんですけど、市販機の何が問題かっていうと、自分たちが使いたいスペックがなかったりするわけですよ。だから、ある透明化法には使えるけど、こっちには使えないとかいう感じのものが結構多くて。なので、僕ら最初に論文出したのが2014年なんですけど、その時は市販機を最初購入して使いました。それはラビジョンバイオテックっていうところが出してた、本当に初期型の透明化組織用のライトシート顕微鏡なんですけど。で、結構工夫して使ってたんですけど、最終的にやっぱり、これは作らないとダメだねっていう話になって、2015年ぐらいから、当時の上田研でメーカーさんと組んで少し作り始めたりして。で、最後は上田研でももう研究者が自分で作るみたいな感じになっていて。で、僕ちょうどその頃にラボを出て立ち上げ、新しいラボを立ち上げた時期で、当時僕が持ってたその問題意識は、僕らもそうなんですけど、作った透明化技術をみんな使いたいと思って使うわけですけど、透明化した後にみんなうちに持ってくるわけですよ。顕微鏡がないですって言って持ってきて、撮ってくださいって言ってくるわけですけど、そこがやっぱり大きなボトルネックだと思っていて、それで、こっちでは全部抱えきれないから、簡単に作って運用できる顕微鏡を作って配るから、それで勝手にやってくださいっていうモードに少し今スイッチしてるという感じですね。
苔口:へえ。
洲崎:それで2024年にdeskSPIMっていう、小型のレゴみたいに自分で組み立てて作るライトシート顕微鏡のデザインを発表して、もう派生型のものもありますけど、大体今世界中で60ラボぐらい近く入って。
苔口:すごいですね。
洲崎:はい。50ラボ以上入ってたと思います。
苔口:前見た時に、想像してた顕微鏡と全く形が違ってて、本当におっしゃってるようにレゴみたいに組み立てていくものですよね。しかもこう上から見るんじゃなくて横から。
洲崎:あれはどういう方向に組んでもいいんですけど、あの場合はサンプルを上から吊るして、前後に動かす設計にしてたので、それで前にカメラがあるっていう感じでしたけど。まあ、他のセットアップだと下から見るタイプもありますし、組み方は色々あります。
苔口:そうなんですね。それをもう無料公開。
洲崎:まあ、基本的にはそうです。はい。アカデミックには無料公開というか、いわゆるオープンソースっていう形で出してます。
苔口:すごいですね。でも、なるほど。そのCUBICの技術を出した時にも、みんなが透明化できるってなって喜んでやってみたけど、見たい時に顕微鏡がなかったから、じゃあ次は顕微鏡も出されて。
洲崎:そうですね。
苔口:いや、その分野の横断が面白いですね。
洲崎:結局自分たちもいるっていうのもあって。deskSPIMのプロジェクトは普及ももちろんあったんですけど、僕ら自身がやはり、なんだろうな、一番ベーシックなデザインのライトシートをまず作っておいて、そこからいろんな機能を付加しながら派生していくっていうような形で、カスタマイズをする方に少しかじを切ったんですね。なので、一番ベーシックなデザインを2024年出して、今書いてる論文は、バリエーションが4つぐらいできていて、そこにプラスαで、後で話題に出てくるかもしれないですけど、三次元病理用の顕微鏡を作ったりとか、ちょっとアドバンスなシステムですけど、そういう風にして展開してます。
苔口:逆に世界中からフィードバックももらったりするんですか?
洲崎:それはありますね。はい。ただまずやっぱり入れたいっていうオファーが多いので、入れて、結構皆さん使いこなされてますね。
苔口:じゃあ自分の技術がこう世界中で使われてるっていう状態になってきた。
洲崎:まあ、今のところはそんな感じです。
苔口: へえ。じゃあ透明化して次も見れて、で、次にデータとして残すってことも、ここもまた難しそうですよね。
洲崎:そうですね。ここは結構やっぱり顕微鏡は透明化に限らず何でもそうだと思うんですけど、いわゆるDNAとかRNAのシーケンスと違って、あれはもう完全にそのACGTのデジタルでデータが出てくるので、割と標準化しやすいんですけど、顕微鏡の画像ってどの顕微鏡でどういうサンプルで撮ったかで全部質が違うので、画像ごとに割とパイプライン作らないといけないんですよね。その辺の難しさはちょっとあります。
苔口:そういったまず画像をデータ化する。で、しかもそのデータというのが、これまでみたいに構造化されていないから、それを何とかしないといけない、っていうところからも、それもほんとゼロからのスタートなんですね。
洲崎:そうですね、はい。そこもちょっとアイデアが今あるので、いろいろやってるとこです。
苔口:その空間オミクスっていうんでしたっけ?いろんな情報の組み合わせですとか、じゃあAIも使ったり。
洲崎:まず、空間オミクスという時に、ほとんどのリスナーの方がイメージされるのは、まあ、いわゆる二次元切片の上に、マルチプレックスのインシチュでいろんな分子の情報を取るとか、あるいは、ビジウムっていうキットがありますけど、スポットが打ってある基板の上に切片をのせて、そこから遺伝子発現を取るとか、いわゆるそれが、現行のスペーシャルオミクスなんですけど、やっぱり二次元なんですね。すごく限定されて、範囲で。そうするとその空間情報をフルで使うっていうのが、まだあんまりできてないんですよ。せいぜい二次元の切片の中で、近い細胞がどれですかとか、あるいは全体として細胞がどこにどのぐらい固まってますかとか、そういうのは取れるんですけど、三次元的なトポロジーの情報とか、あるいはすごくレアな細胞の情報とか、そういうのは取れないんですよね。だから、僕らが今やってるのは、その三次元の画像データから空間情報をどうやって特徴量化して取ってきて、それを分子の情報と統合していくかっていう、そういうちょっと別軸なアプローチを試していますね。で、それを僕らセルオミクスっていう風に呼んでいて、セルのオームですね。つまり、トランスクリプトームとかプロテオームっていうのは、その総体としてのオームって名前がついてますけど、セロームっていうのを考えて、つまりサンプルの中にある全部の細胞の空間情報ですね。これをセロームって呼んで、セロームを解析するのでセルオミクスっていう風に呼んでるんですけど、その情報をどうやって取るかっていうところが、少し工夫の仕方あるかなと思っています。
苔口:これは結構世界的にも新しい取り組みなんですか?
洲崎:結構新しいと思います。はい。3Dのモフォロジーを定量化して解析するって、まだほとんどやられてない分野なので。これ結構面白くて、それこそオルガノイドの形態解析にも使えますし、組織病理学の3Dのデータの形態解析にも使えますし、そのまま、これもう完全にデジタル化されたデータになりますから、そのままAIに繋ぐこともできますし。
苔口:へえ、すごいですね。
洲崎:取ってくるとこですね、情報。そこをどうするかっていうのが。
苔口:じゃあその今までは、さっきおっしゃってたように、まずは2Dのもので、XY軸みたいな座標があって、それをたくさん重ねていくことによって3Dで見ようっていうものじゃなくて、初めから3Dで見ようっていうものなんですね。
洲崎:そうです。だから、2Dを重ねて3Dってのはもちろんできるんですけど、通常のその組織形態学でも、連続切片にしないといけないんですよね。結構難しいんです。技術的に難しいし、物理的に切ってますから、まず壊れてますよね。そうすると、切片と切片の間の構造の接続というか、ここを作るのって結構難しいんですよ。でも3Dの塊で見てるとそこの破壊がないので完全に連続したデータになってますし。で、そこにオミクスなんかを載せようとすると、空間オミクスの今の1枚のスライドって何百万もするので、これ例えば100枚撮って重ねましたとかって言ったら、それだけで億単位のお金が飛ぶみたいな感じなんですね。だから、海外のグループなんかで、少しリソース的にそういう研究をやって論文出してるとこもたくさんありますけど、なかなか個別の研究でそれを使うっていうのは難しいんですよね。
苔口:あー、なるほど。CTスキャナーとかMRIとかも割と断面で撮っていくイメージなんですけど、本当それと全く逆の発想で、もう初めから全身バンって撮るような。
洲崎:CTとかMRIを顕微鏡でやってるっていう。
苔口:そういうことですね。
洲崎:考えてもらえばいいと思います。はい。
苔口:なるほど。で、それが最終的には立体画像として見えてデータ化されてるっていう。
洲崎:そうです。
苔口:すごいですね。で、そのさらに分野を今セルオミクスっていう分野を作ってるってことですね。
洲崎:そうです。
苔口:へえ。で、これでやっと見たいものを透明化して見ることができて、かつ解釈もできる準備ができたっていう。
「染み込む」と「くっつく」は両立しない?10年かけた3D染色
洲崎:で、今そこのワークフローの中で抜けてるのが、実は色をつけるっていうところなんですね。遺伝学的なあのラベリングの方法はいいんですけど、組織学的なラベリング、つまり抗体で染色するとか、何か色素で染色するとかいう過程がいるわけですけど、普通はこれも2Dなんですよ。切片にして表面に抗体を例えば振りかけて、で、何かタンパク質を検出するみたいなのが普通ですけど、3Dだとその抗体がターゲットに結合するまでに染み込まないといけないんですよ。この染み込む過程と、結合する過程っていうのは実はトレードオフになっていて、結合が強いと染み込まないんですよ。だから普通に二次元染色の延長で三次元のブロックの塊を染めると、表面しか染まらないです。二次元なので中染まらないんですよ。だからこれをどうやって均一に中を染めるかっていうのが実はすごく難しくて。透明化試薬は確か2年半ぐらいでできたんですけど、これもう本当に10年近くやってますね、この3D染色に関しては。
苔口:そうなんですね。
洲崎:2013年ぐらいから始めて、最初の論文が2020年に出て、今そのアップデートプロトコルを書いて投稿中なんですけど。
苔口:へえ。それって漬け続ければいずれ染み込むものなのか、
洲崎:そういうものではない。
苔口:ではないんですね。
洲崎:結構いろんなファクターをコントロールしないといけなくて、それをどうやって実験的にその実装可能な形でプロトコル化するかってとこが結構大変。
苔口:へえ、じゃあそこが意外と今の一番のチャレンジなんですか?
洲崎:そこはもう10年ぐらいかけて解決しました。だから今はキットで売ってますし、論文を今書いて。
苔口:食品にちゃんと味を、味付けをするって感じですね。
洲崎:そうですね。だから本当に、なんだっけ、アヒージョメソッドとかしばらく呼んでた時もありますけど。
苔口:そうなんですか。
洲崎:はい。だからどうやって染み込ませるかってことですよね。アヒージョの場合は、なんだろうな、くっつくわけではないので、その味の成分が。なので、そのままスーッと入ってくるんですけど、染色剤の場合は染まるものにくっつきますよね。これやっぱり結合する過程っていうのが浸透を妨げるので、そこのコントロールをどうやってするかっていうのがすごく難しい。
苔口:面白いですね。この、でも一通りのワークフローはもうある程度完成してきたっていう状態ですか。
洲崎:そうですね、はい。今だいぶだからそこが、こう一つの筋で通って、やっと応用のフェーズに入ってきたと。
がんを「塊のまま」見る。3D病理がひらく個別医療
苔口:へえ。じゃあここから実際にやりたかった研究が、とか、これから何かを見るってことは解決できるってことはできるものですね。その一つが、今、この前もお邪魔させていただいたデジタル病理。
洲崎:そうですね。はい。おっしゃるとおり。
苔口:デジタル病理に初めから使いたいと思ってこの研究されてたんですか?
洲崎:僕ら自身はその前の上田研究室にいた時は、上田研究室はニューロサイエンスのラボなので、基本的には。なので、脳のその神経回路の解明とか、そういうものを使っていたんですけど、最初の論文を 2014年に出した後に、今大阪大学の病理学にいらっしゃる丹羽先生という方が、これちょっと病理に使ってみたいということで持ち込まれて、そこで共同研究を初めて病理の先生と開始して、その論文が 2016年に出ました。で、それが最初の仕事で、そこから僕が独立するかしないかぐらいの時に、ちょっとこれ本当に3Dとデジタルっていうのをつないで病理に応用した方がいいんじゃないかっていうのを思い出して、そこからちょっと僕自身が病理のコミュニティに入り出したんですよね。で、今日本のデジタル病理研究会とかの理事をしていたり、あとアジアのデジタル病理学会の理事をしていたりっていう形で、ちょっとそういうところに踏み込んで、透明化とそのライトシートを使った三次元病理学というのを実際に臨床実装しようというふうに少し舵を切ってプロジェクトを進めているって感じですね。
苔口:そうなんですね。じゃあ声がかかって、これを始めて。
洲崎:最初はそうですね、はい。だからむしろ病理の先生側からのやっぱり問題意識というか、そういうのが最初あって、そこに結構触発されたっていうところはあります。
苔口:そうなんですね。確かに病理って今までってイメージとしては、例えばがんの細胞があったら、それをがんかどうかわからないけど、腫瘍があったらそれを一旦切り取って、薄くスライスして、どこかに送って解析してもらうっていう。じゃあそれがこう薄い断面でこれががんかどうかを見るっていう手法だったんですよね。
洲崎:そうですね。
苔口:だからまさにその3D化すれば、もしかしたらそれががんかどうかもっとわかる。
洲崎:そもそもどこががんかっていうのは、その塊の中からは最初わかんない。
苔口:やっぱわからないものなんですね。
洲崎:肉眼的にもちろんわかる部分もありますけど、例えばものすごく小さい病変だとか、がんに付随する、例えば炎症細胞がどこに浸潤しているかとか、あるいは全体のその血管構造ですね。がんはやはり、血管が入ってきて栄養してますから、血管がどう巻いてるかってすごい重要だし、最近だと神経がどう入ってきてるかとか、あるいは線維化ですね。周りにがん細胞をこう支える間質細胞が結構いるんですけど、CAFって言われてますけど、ああいうものがどこにどう分布してるかとか、その辺全部がんのいわゆる微小環境、あるいは薬にどういうふうに反応するかみたいなところに全部関係するわけですよ。で、それを見ようとした時に、その2Dで特定の断面だけ見ていると、やっぱかなりの情報が落ちてるということになりますよね。そういうのが、こう3Dで見えないかっていうことで、病理の先生たちといろいろディスカッションしてて、やっぱかなりの先生方が、モチベーションとしては、これ3Dで見たら全然見えるんじゃないかっていうような、問題意識を持たれていて、そういうところで今いろんな病理の先生たちと、コラボレーションを始めてるという感じです。
苔口:すごいですね。最初これが計画立った時、あ、これだってやっぱり感覚はありましたか?
洲崎:最初のプロジェクトでは、あ、病理にも使えるんだっていうぐらいでした。正直、本当は最初はですね。なので、ただ一緒に、僕自身がMD、お医者さんの免許持っているので、やっぱりあのメディカルサイエンスというか、そちら側への応用っていうのは、どのタイミングであっても考えている部分があるので、意外といけるのかもなと思っていろいろ調べていくと、実は結構大きな分野に育ちそうだっていうところがわかってきて、それが本腰を入れ始めたという感じですね。
苔口:確かにやっぱりその組織の、おっしゃってたように、これがどういうがんなのか、そもそもがんかどうかっていうのを見るのってすごく経験が必要ですし、それを今までが、もう人が肉眼と経験で見てきたっていうものが、すごいノウハウが本当はどっかに眠ってて、それがさらに3D化されるとより分かりやすい。
洲崎:活用できる、そうですね。分かりやすくなるかもしれないですし。
苔口:見落としもなくなるかもしれないし、より結果的には治療もしやすくなるかもしれない。
洲崎:おっしゃるとおりです。だから3Dのその構造情報の中にどの薬に効きますとか、こういう治療法でこういう転機になりますとか、そういった情報が結構眠ってると思っているんですよ。だからそういうところをうまく情報として取ってきて、AIに組み込むみたいなことをすると、いわゆる患者モデルみたいなものが、3D組織で作れますよね。そういうものに展開していくといいなと思ってます。
苔口:ああ、すごい。じゃあそのセルオミクスを使って、それががんの治療がより効率的にできるかもしれない。
洲崎:そうですね、はい。いわゆる、個別化医療的な使い方です。
苔口:ああ、すごいですね。でもそういうふうに使ってもらえるのはかなり嬉しいです。
洲崎:いや、そうですね。自分たちでそうしたいなと思ってます、最近は。はい。
全身を、一つ一つの細胞まで見る。小さな生物「ヒドラ」への着目
苔口:そしてさらに病理でもご活躍なんですけど、最近はヒドラに注目されているってところ。これも透明化の延長なんですか?
洲崎:ヒドラはちょっとまた違うモチベーションで、いくつかのモチベーションの組み合わせなんですけど、僕はその自分のバックグラウンドを人に説明するときに、「システム生物の人です」って言ってるんですね。この透明化の技術、さっきセルオミクスという概念をちょっとご説明しましたけど、これは要は、システム全体を見る技術なんですよ。システム生物学って、いわゆるオミクスとの組み合わせが非常に重要なんですけど、これはなんでかっていうと、そのシステム全体を見る必要があるので、オミクスとすごく相性がいいというか、システム生物をやるためにオミクスが必須という言い方もできるかもしれないですけど。だから、組織の中の細胞全体、あるいは細胞が作る構造全体を見るには、やっぱりそのためのオミクスが必要で、まあそれがセルオミクスなんですね。で、マウスでも僕らの人の体でもいいんですけど、そうは言ってもやっぱり全身を見るって結構大変で、しかも一個一個の細胞の解像度で見るっていうのは結構大変で、やっぱりその個体全体が、細胞の集合としてどういうふうにシステムを成立させてるかってのを調べる時に、ちっちゃい生物はやっぱりやりやすいんですよね。
で、そういう観点でいろいろ探してる時に、まずヒドラが出てきたということがあります。で、あと僕はその大学院生の時の仕事が、いわゆがんとか細胞周期の仕事をしていて、細胞老化っていう現象があって、細胞老化っていうのは、細胞が細胞周期を止めて、で、そこからいろんな細胞に分化していくんですけど、その一形態というか、帰結みたいな形で、いろんなDNA障害なんかが入ると、細胞老化っていう状態になるんですね。セネッセンスという状態になるんですけど、この辺ぐらいが僕のその大学院生ぐらいの仕事の範囲だったんですよ。で、その時から老化自死という現象自体に興味があって。
で、ヒドラを調べてると、なんか老化しないっていう話が出てくる。これめっちゃおもろいじゃんみたいな話になって、そこをちょっとつなげようっていうのが出てきたのがもう一つですね。で、あとツール的にヒドラは遺伝子工学が使えると。完全ではないんですけど、トランスジェニックヒドラが作れるし、ノックダウンができるしっていうようなことがあって、要はそういう遺伝学的なパータベーションが与えられるモデル生物っていうので、そこもあって、ヒドラやろうっていうふうになったって感じですね。
苔口:すごい、いろんな検討をされたんですね。他にも、こう動物って思うと、メダカですとかゼブラフィッシュとかいろんな、人によってはもっとマウスとかあると思うんですけど、その中でいろんなものを見ていったら、まあヒドラが一番面白かった。
洲崎:そうですね、はい。やっぱり、本質的なメカニズムとか現象の、その根幹みたいなものって、シンプルなもので見ていった方が絶対簡単に解けるので、そういうのもあって、ちょっとそういう原始的な生物の方に少し目がいったっていうのもあります。
苔口:へえ。いや、なかなかヒドラっていうものにたどり着くまでに、すごいプロセスがあったんじゃないかなと、探索が。
洲崎:そうですね。でも何かのミーティングかなんかで、ヒドラの話題を聞いて、それでちょっと興味が。
苔口:ピンと来たんですか。
洲崎:そんな感じです。
苔口:へえ。ヒドラの研究って日本で結構されてるものなんですか?
洲崎:えっと、有名なグループがいくつかありますね、はい。ただヒドラの、ヒドラも含むその刺胞動物の研究自体が、分野としてはそんな大きくなくて、2年に1回ナイドフェストっていう、国際会議があるんですけど、ナイドフェスト(Cnidofest)、刺胞動物ってナイダリアンって言うんですけど、ナイダリアンのフェスティバルなのでナイドフェストっていうんですよね。で、2年に1回やってて、今年はアメリカのボストンであるんですけど、それに集まる人たちっていうのは、要はそのヒドラを含む、刺胞動物の研究者のメジャーな人たちが通ってくるんですけど、大体それで数百人ぐらい。なので、その中でヒドラをやってるグループっていうと、そこからさらに減るので。
苔口:じゃあ結構希少。
洲崎:結構希少。逆に言うとそれもあって、あんまり技術開発とかが進んでなくて、本当になんかクラシカルな発生実験とかはもう本当に昔からあるんですけど、いわゆるちょっとこう、先端的な、例えばクリスパー・キャスを使うとか、遺伝子工学ですよね。ネズミとかハエとか、ああいうものでよく、もうやられていて、技術的に確立してるようなところがヒドラでほとんどできなくて、そういうところをちょっとやりたいなっていうのがモチベーションでした。
苔口:すごいですね。ヒドラってすいません、そもそも、ちっちゃいイソギンチャクみたいな、こう手が生えてるようなイメージなんですけど、そういうものなんですか?
洲崎:そういうものですね。同じ刺胞動物なので。僕もよくそういうふうに説明します。
苔口:ちっちゃいイソギンチャクみたいな。
洲崎:はい。しかも淡水性なんです。
苔口:あ、淡水に住んでるものなんですね。じゃあ川とか湖とかそういうとこにいるんですか?
洲崎:はい、いますいます。
苔口:見たことないですよね、多分。
洲崎:僕も自然界では見たことないですけど、結構ヒドラを研究してる方々は本当に、自然界から採取して、それで株化して、研究に使ってるっていう人たちは結構います。
苔口:へえ。今じゃあ実際に飼ってるっていうか、飼育してるんですか?
洲崎:してます、はい。
苔口:何匹ぐらい?
洲崎:何匹、いや、結構いると思いますけど、1000匹ぐらいの。
苔口:そんなにいるんですね。
洲崎:はい。多分シャーレのこんなので飼うんですけど、それにインキュベーターの中にどんと入ってますので、数百匹から、以上はいると思います。
苔口:不老不死なんですか?
洲崎:と言われてますね、はい。一応実験的に不老不死っていうことが計測されてる生物になります。
苔口:じゃあ、やっぱりシャーレに入れてても死んでないんですね。
洲崎:死ぬかどうかと不老不死はちょっと違っていて、例えば、飼育条件が悪かったらもちろん死にますよね。で、ヒドラの場合は、浸透圧に弱い、あと温度に弱いので、熱くなるとすぐ死にますし、塩がちょっとでも入ると、もうすぐ死んじゃいますね。
苔口:繊細なんですね。
洲崎:はい、結構。で、水が綺麗じゃないとダメなので、結構飼育シャーレの中でどのくらいの匹数で飼うかとか、入れた後のその餌をこう食べて、糞を吐き出すわけですけど、その後のウォッシュとか、その辺は結構気を使わないと、うまく増えない。
苔口:そうか。それはまあ飼育条件が揃った上で、ずっと死なない状態ができるってことなんですね。
洲崎:そうですね。はい。基本無性生殖といって、一匹のヒドラから芽が出てきて、その芽がニョキニョキって伸びて、プチンって切れて、次のヒドラができる感じで。
苔口:どのくらいの頻度でそれが起きるんですか?
洲崎:頻度でいうと、ちょっと調べたことないのでわかんないですけど、数日に1回ぐらい。
苔口:あ、そんなに?
洲崎:はい。だからシャーレで100匹ぐらい飼ってると、必ず何匹かはいますよね。 それなりの。
苔口:で、気づいたら増えてるんですか?
洲崎:はいはい。
苔口:へえ。で、それも今透明化しようとしてるんですか。
洲崎:そうです。はいはい。それをまさにその全身、全細胞を見るみたいなのでやろうとしてます。 透明化することで、オミックスでシステム全体見ると何が見えてくるんですか?
苔口:まずわかるのはそのどういう細胞がどこにどれだけいて、どういう細胞と繋がっていてみたいな、そういうこう、システム構成全体がわかりますよね。で、これさっきの例えば車の議論で言うと、車外から見ててもただの箱じゃないですか。その中にどういう部品がどこにどういうふうに配置されてて、どこに何個あるかみたいなのを調べるのが、その仕組みを調べる最初ですよね。で、それをまさにやるのが最初のステップになると思います。その上で、どの細胞がどういう機能に重要かってのを今度調べていくことになりますから、そうするとその特定の細胞にパータべーション与えるとか、その細胞を機能させるために重要な遺伝子にパータべーションを入れるとか、そういった形で、これはもう、もちろんバイオロジカルクエスチョンによりますけど、そういう形で調べていく格好になると思います。
苔口:ヒドラってこう切ってもまた増える、死なないで増えるんですよね。不思議です。
洲崎:すごく再生能力強いので、バラバラにして混ぜとくとまた戻るので。
苔口:え、バラバラに切って、近くに置いとく
洲崎:切るというか、本当に一細胞にバラして。
苔口:あ、細胞一個ずつですか?
洲崎:そうです、そうです。ピペットでこうぐちゃぐちゃぐちゃってやって、細胞全部バラバラにして、リアグリゲートっていうんですけど、こう固めとくんですね、おにぎりみたいに。
苔口:え。
洲崎:で、そうするとそこからニョキニョキってまたヒドラが生えてくるので。
苔口:もうエイリアンとか、ターミネーターとか、あんな世界ですか。
洲崎:そうです、そうです。
苔口:すごいですね。
洲崎:すごく面白いですね、はい。
苔口:え、じゃあもう自分たちで勝手にどういう形になるべきかっていうなんかもう情報が入ってるんですか?
洲崎:そうなんですよ。そこが面白いですよね。どこに頭ができて、どこに足ができるみたいな。
苔口:それ一つの細胞が複数の役割を持つ可能性があるんですか?
洲崎:えーとですね、一応その再生の時は、ヒドラの細胞が何種類かやっぱ固まってないと再生しないというふうには言われていますね。ただ、ヒドラはもちろん卵から発生しますから、その卵の一番最初は受精卵ですよね。受精卵のところから、どういう風に発生していくかっていうのはまたちょっと別の話で。大人になったヒドラは、再生するときには、一応その、一通り細胞種が揃ってないと再生できないというふうには言われています。
苔口:面白いですね。それも発見した時、やっぱり結構感動というか。
洲崎:いや、これはもうめっちゃ古い、
苔口:あ、昔から知られてることなんですね。
洲崎:もう本当にヒドラっていう生物が研究され始めた、もう十八世紀とか、そのぐらいのもう教科書から載ってて。ヒドラ自体は、ものすごく細かく、もう記述はされてるんですよ。もう一個一個の細胞がどこに何個あって、どの細胞と、みたいなのは、もうこんな分厚い教科書に、もう一から十まで全部書いてあるぐらいなので、生物としてのその研究の歴史はものすごく古いですね。ただ、やっぱり最近のそのモダンな技術ですよね、遺伝子工学だったり、ゲノム編集だったり、あるいはシングルセルの解析だったり、スペイシャルだったり、そういうのはやっぱり分野がちっちゃいので、なかなか適用が進まない感じ。ちょっとずつやられてる。
苔口:かなり歴史があるんですね。
洲崎:歴史自体は古いですね。
苔口:へえ。今後ヒドラでこういうことができるといいなとか、例えば人間に応用できそうなことってあったりしますか?
老化しない生物を、老化させる。逆転の発想で取り組むアプローチとは
洲崎:僕らがやりたいのは、そのヒドラで、老化のメカニズムを探したいわけなんですけど、今のその老化研究で、一番僕らが大きな問題であると考えてるのは、ほとんどの老化研究が老化生物を使ってるんですよ。人間もそうですけど。
苔口:はい。
洲崎:ハエとかネズミとか線虫とか全部老化するんですよね。そうすると、その老化生物に何かパータベーションを与えて、寿命が伸びました、縮みましたとか、あるいはその、ある老化の表現型ですね。ネズミとかだと、例えば抜毛とか、あるいは、血液細胞の分布だったりとか、いろんなパターンとかだって調べられますけど、あるいはDNAメチル化とかですね、まあ何でもいいんですけど、要は、そういうこう老化のリードアウトみたいなものが、良くなりましたとか、悪くなりましたとかいう観察はできますよね。ただ、元々老化生物って勝手に老化するじゃないですか。だからそこにパータベーションを加えても、そのパータベーションが本当に老化を、なんだろうな、開始させた本質的なメカニズムなのか、単純に勝手に老化するここを、ちょっとモディファイしただけなのか、区別つかないんですよ。だから、老化生物を使ってると、一番老化のキーファクターというか、これがあったら老化するみたいなものが見つからないと僕思ったんですね。それで、がん研究なんかでは、よく言われてるというか、歴史的にそうなんですけど、正常の細胞ってそのままじゃがんにならないんですよ。だから、そこにどういう刺激が入ったり、パータベーションが入ると、普通の細胞ががん化するかっていうのが、がん研究の歴史、調べられてきたのががん研究の歴史なんですね。だから老化も同じロジックが通じるはずで、老化しない生物に何かを入れて、そいつが老化し始めたら、こいつが老化のキーファクターだって言えるはずですよね。だから、そういう研究を多分立てる必要があるだろうと思って、それで老化生物、あ、老化しない生物ですね、非老化型の生物にちょっと注目したというのがあります。だから僕らがヒドラで究極的にやりたいのは、その老化生物の老化のメカニズムと言われてるいろんなメカニズムがありますけど、これヒドラに持ち込んで、ヒドラが老化しだすかどうかっていうのを観察するという、まあいわゆる再構成ですね。老化の再構成っていうのをやりたいっていうのが、究極の目標です。
苔口:老化のそもそもの定義を考え直す。
洲崎:そうですね。あるいは、一番本質的なキーファクターを探すというか、そういうことですね。
苔口:ああ、すごいですね。それができたら本当にすごいです。
洲崎:これは結構面白いかなと思ってます。
苔口:いやー、すごい。本当に分野がもういろんなところに横断していて、だからもう、多分、その見るためには物理も必要ですし、解釈するためには、データ、AIの解釈も必要ですし、そもそも透明化するところで、そういう組織についての知識も必要ですし、それがさらに今度はヒドラという。
洲崎:そうですね。だからヒドラはさっきも言ったようにシステムで観察できますから、仮に老化するヒドラを僕らが再構成ヒドラを作れたとした時に、じゃあどの細胞が構成変化していて、みたいなのを全身探索できますよね。で、そうすると老化に関係する細胞みたいなのを直接探すことできますから、老化を再構成して、全身の細胞の構成を調べて老化関連細胞を探すみたいな、そういうフローを今作ろうとしています。
苔口:すごいですね。本当にいろんな分野を、こう融合してですとか、それぞれも結構深く関わっていらっしゃるじゃないですか。それはすごいなとやっぱ思ってて。
洲崎:やっぱ僕の中では結構横断してるんですよね。
苔口:横断してるんですね。
洲崎:はい。ただ、こう見えてる竹の子みたいな感じで、全部近くでつながってるんですけど、出るところが違うので、上から見ると違う場所から生えてるように見えるんですけど、実は全部根っこでつながってるみたいな。
苔口:それ自体もちょっと3Dで見なきゃいけないんですね。なるほど。
Stellar Lab Radio.
洲崎さんをゲストに迎えしてお届けしているエピソードの前編はここまで。いかがだったでしょうか。洲崎さんは既存の研究領域を超えて、世界でも新しいセルオミクスを率いていらっしゃることに大変感動しました。後編では、なぜ洲崎さんが研究者になろうと思ったのか、研究の世界へ飛び込んでいった原点、そして現在の研究にかける熱い思いまで深く探っていきたいと思いますので、後半もぜひチェックしてみてください。
Stellar Lab Radio.まだ誰も知らない世界を変える研究について。
ホストはStellar Science Foundationの苔口穂高でした。
See you soon on Stellar Lab Radio,