STELLAR SCIENCE FOUNDATION(SS-F)は、CZI(Chan Zuckerberg Initiative)が運営するCZ Biohub Networkとの共同で、「Global Science Scholars ー SS-F & CZ Biohub Network プログラム」を開始しました。このプログラムは、日本と米国の若手研究者を対象にフェローシップ(奨学金)を提供し、最大2年間にわたる相互派遣を実現するものです。2024年12月17日より、プログラム採用者の公募を正式に開始しました。
Global Science Scholarsプログラムは、次世代の科学者たちが世界トップレベルの研究環境で学び、未来の科学をリードするためのフェローシップです。プログラム発足に際し、CZIの科学部門責任者のSteve Quake氏、CZ Biohub Network副代表のAmy Herr氏、そしてSS-F創業者/ 代表の武部 貴則がそのビジョンと期待を語ります。
Steve Quake:
科学は国境を越えた取り組みであり、今世紀中にあらゆる疾患を治癒・予防・管理するという私たちの壮大な目標を達成するには、世界中の優れた頭脳が必要です。Global Science Scholarsプログラムは、CZ Biohub NetworkとSS-Fが提携し、日米のポスドク研究者を対象に、キャリアを伸ばし画期的な研究を進める機会を提供します。
このプログラムは、才能ある若手研究者とクリエイティブな指導者を結びつけ、バイオエンジニアリングやバイオメディカル分野の研究に果敢に挑戦することを目指しており、異なる国の研究文化を学び、国際的なコラボレーションを促進するための支援です。CZ Biohub Networkは設立から間もない組織ですが、提携する9つの大学(※1)や、その研究者たちの力を活かし、素晴らしい成果を上げてきました。今回のSS-Fとの国際連携で、さらにネットワークを広げられることを楽しみにしています。
なぜCZ Biohub NetworkとSS-FはGlobal Science Scholarsプログラムを始めるのでしょうか? どのようなコミュニティを築いていきたいと考えていますか?
Amy Herr:
CZIの「すべての疾患を治癒・予防・管理する」という目標は非常に大胆です。その目標に向かうためには、多くの人が力を合わせる必要があります。このフェローシップは、その挑戦に共鳴し、人々の生活の質を向上させる機会に胸を躍らせる組織と共に進めています。
CZ Biohub Networkは、世代や機関、分野、地域を超えたコラボレーションを基盤にしています。このプログラムでは、世界中からアイデアが生まれる力を理解し、異なる分野や文化に飛び込んで学びたいと考える研究者を求めています。
武部 貴則:
STELLAR SCIENCE FOUNDATION(SS-F)は、2021年に私と同じ志を持つ仲間たちと設立しました。この団体は、私自身と志を共にする友人たちが、日本の科学技術分野のさらなる可能性を信じ、「日本から世界を変えるイノベーションを生み出し続けていきたい」という共通の想いから立ち上げました。
SS-Fの核となる価値観は、「People-Centric」です。従来の上下関係が強い研究環境や、分野ごとに分断されたアプローチではなく、人と人が出会い、交わることで生まれる新しい発見や発明こそがイノベーションの鍵になると考えています。
この価値観を反映しながら、私たちが目指すのは、国や分野の垣根を越えて研究者が自由にアイデアを交換し、協力できる「信頼される」グローバルな科学コミュニティの構築です。このGlobal Science Scholarsプログラムは、研究者同士やエンジニア、スタートアップの起業家など、さまざまな人々との偶然の出会いが新たな発見や発明につながる、そんな環境を提供する第一歩になると考えています。
このフェローシップがもたらす影響について、どのように考えていますか?
Amy Herr:
素晴らしいアイデアは、異なる分野が交わるところから生まれます。そうした異分野の交差点は、科学への新しい考え方を生み出す場です。このプログラムでフェローたちが取り組む研究が、生物学や疾患理解の新しいアプローチを生み出し、CZIのミッション達成に近づく手助けになることを期待しています。
CZIが特に力を入れているのは、「common-good(公共善)」を目的としたリソースの提供です。例えば、Human Cell Atlas(※2)やソフトウェアツール、プレプリントサーバー(※3)などが挙げられます。科学コミュニティ自体も、重要なcommon-goodリソースです。Global Science Scholarsプログラムは、こうしたコミュニティの発展に貢献するでしょう。
このフェローシップに参加するポスドク研究者は、キャリアのスタート地点で、経験豊富な指導者と共に難しい問題に取り組む機会を得ます。科学的な成果はもちろんですが、フェローと指導者、そしてホスト機関との間に築かれる持続的な関係にも大いに期待しています。こうしたコミュニティの形成は、連鎖的に良い影響を与えていくでしょう。
武部 貴則:
私自身の経験を振り返ると、科学の転機には必ず重要な出会いがありました。多くの科学者も同じ経験をしていると思います。このプログラムは、若手研究者に同じような出会いを提供できると確信しています。
異なる国や文化、研究環境に飛び込むことで、多様な価値観やアイデアに触れることができます。こうした経験は、研究の質を高め、将来の共同研究の可能性を広げ、キャリアの選択肢を増やしてくれるでしょう。
また、このフェローシップを通じて、活気ある多様な国際研究ネットワークの基盤を築きたいと考えています。国境を超えた科学コミュニティが形成されることで、科学の「境界線」が薄れ、世界的な課題に取り組む画期的な成果が生まれることを期待しています。
若手研究者として、武部さんが米国で研究室を立ち上げた経験について教えてください。
武部 貴則:
28歳でアメリカに自分の研究室を立ち上げたことは、挑戦と学びに満ちた経験でした。私の研究は肝疾患の新しい治療法を見つけることから始まり、移植医療の分野でキャリアを築いてきました。2013年にiPS細胞から3次元「ミニ肝臓」を作成する研究成果が認められ、スタンフォード大学の中内啓光先生の研究室で助教を務めた後、シンシナティ小児病院で独立した研究室を持つことになりました。
シンシナティ小児病院は米国で最高ランクの小児病院の一つであり、小児医療における革新的な研究の伝統があります。このような環境で独立することは大きな責任を伴いましたが、自由に自分のアイデアを追求し、新しい挑戦をする貴重な機会でもありました。
日本では助教授になっても独立して研究する機会は限られています。シンシナティ小児病院では、集中管理された研究リソースや学習環境、そして他の研究者との協力が非常に盛んです。これにより、個々の努力が相乗効果を生み出しやすい環境が整っています。
このプログラムは、若手研究者にとって新しい視点を得る絶好の機会です。慣れ親しんだ環境を離れて、異なる角度から自分の研究やキャリアを見つめ直すことは、研究者にとって非常に重要です。このプログラムが、若手研究者にそうした「枠を超えた思考」を促す場になることを願っています。
フェロー候補者に求める資質や専門分野について教えてください。どのような人材がこのフェローシップに向いているでしょうか?
Amy Herr:
「枠を超えて考える」こと、そしてそれを「一緒に実践する」ことですね。新しい国や文化に飛び込むことを楽しみ、日常とは違う環境に挑戦したいと考える人を求めています。優れた科学やエンジニアリングを行い、研究室から生まれたアイデアを社会に還元する意欲のある方に来てほしいです。それは起業かもしれないし、臨床研究かもしれません。
現代の科学の潮流に合った、より良い研究の進め方を模索し、他の科学者や患者など幅広い関係者と協力して、人類のために貢献したいと考える研究者を歓迎します。優れた指導者が、フェローたちのキャリア初期をしっかりとサポートしていきます。私たちはこの道を一緒に歩んでいきます。
このフェローたちはどのような科学研究に取り組むのでしょうか?
Amy Herr:
すべての疾患を治癒、予防、管理するために必要だと考える重要な仮説の一つは、新しいツールの開発です。シングルセル・シーケンシングやCRISPR、高解像度イメージング技術(クライオ電子トモグラフィーなど)といった技術革新によって、疾患理解が大きく進展してきました。
Biohub Networkは、長期的な視点に立ち、これから100年先まで必要となる能力の開発に焦点を当てています。フェローたちは、純粋な生物科学の研究からバイオメディアカルエンジニアリングの研究に至るまで、さまざまな分野に取り組むことになります。
日本の「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」とこのフェローシップの関係についてもう少し教えてください。
武部 貴則:
内閣府が推進する「グローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)構想」は、世界トップクラスのイノベーション・エコシステムのハブを確立することを使命としています。GSC構想では、グローバルなネットワーク、先進的な研究環境の提供、多様な人材の交流を通じて、日本のイノベーションを牽引するビジョンが示されており、その理念はSS-Fが目指す姿と多くの部分で共鳴するものでした。
また、この構想の一貫として、若手日本人研究者を米国のトップ研究機関に派遣するプログラムが提案されました。SS-Fは、設立当初からグローバルなネットワークを持つ多くのメンバーが在籍しており、国際的なフェローシップを実施した経験もあるため、これらのリソースやネットワークを活用することで、プログラムの成功に大きく貢献できると確信しました。また、このプログラムを通じて、SS-Fのミッションでもある国際的な科学技術交流を促進し、若手研究者が国際的に活躍できる環境づくりを促進することができると考えました(※4)。
このGlobal Scinece Scholarsプログラムによって、科学技術分野における国際交流を促進し、若手研究者たちがグローバルな舞台で活躍できる環境を整えていきます。