Stellar Lab Radio 第3回 ゲスト:三浦 恭子さん

体の老化に抗い、がんやアルツハイマー病にならない。 そんな「特別な哺乳類」として注目を集めているのが、ハダカデバネズミです。地下に広がる巣で、数十匹が協力して暮らすこの小さな生き物は、健康長寿と社会性という二つの面で、私たち人間の未来に多くのヒントを与えてくれます。
今回のStellar Lab Radioでは、ハダカデバネズミの研究を通じて「老い」と「共生」の謎に挑む、九州大学大学院医学研究院 教授の三浦 恭子さんをお迎えしました。
Stellar Lab Radioは、「まだ誰も知らない、世界を変える研究」に光を当てるトーク番組。
世界レベルで活躍するトップ研究者たちが、最先端の研究やブレイクスルーの裏側、そして未来へのビジョンを語ります。
前編では、デバネズミの飼育環境づくりや、お見合いによる繁殖の工夫、がんや老化に強い体の秘密、そして平和な社会を保つ仕組みまで。地球上でもっとも「老いない生き物」の研究から見えてくる、人間社会へのヒントを探ります。
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熊本から九州大学へ。「ハダカデバネズミ大行進」の舞台裏
Sean:九州大学の三浦先生の研究室で収録をしていますが、先生は今年の4月に九州大学に入って、今までは熊本大学にいらしたというところですよね。
三浦さん(以下、三浦):そうです、はい。
Sean:でもまだデバちゃんというか、デバネズミちゃんたちはまだこっちに。
三浦:熊本大学に、はい。
Sean:そうですよね。来られてないっていうか、多分こう動かすっていうのは結構大変そうな
三浦:いや、大事業ですね。
Sean:そうですよね。その時に
三浦:もう1年がかりで準備してます。
Sean:なるほど。結構その環境を変えるというのが大変そうということですよね。
三浦:そうですね、やっぱり飼育施設を九州大学で一から作る形になるので、それの設計とかですね。いろんな準備をして全部整えてからお引っ越しという。
Sean:なるほど。
三浦:デバネズミ大行進ということで。
Sean:なるほど。その環境づくりとかデバネズミが研究対象にはなってるんですけど、デバネズミをどうケアしていくのかとか育てていくのかというのが、それも当然やらなければ。
三浦:もちろんです、はい。
同居人ばかりでロマンスが生まれない? 試行錯誤の日々
Sean:そこのやり方っていうか、どういうふうにそれをマスターしたのかというのがちょっと気になってたことの一つなんですけど。
三浦:なるほどですね。元々ハダカデバネズミの飼育と研究をやっていらっしゃった、今、帝京大学にいらっしゃる岡ノ谷一夫先生という先生が、私ハダカデバネズミの研究を始めたのは2010年なんですけど、その頃に私が岡ノ谷先生からデバネズミを受け継いだんです。なので、元々ベースの飼育方法は、もう岡ノ谷先生からばっちり教えていただいて。でも、そのあと15年ぐらいかけて色々改善して、なかなか最初やっぱりうまく増えなかったので、色々方法を変えていって、今はだいぶ繁殖するようになりました。
Sean:すごいですね。やっぱりその最適な環境がないと繁殖することは(難しい?)。
三浦:そうですね、はい。
Sean:なるほど。それも実験的に。
三浦:そうですね。やっぱり今でもちょっとずつ変えていってますね。
Sean:なるほど。
三浦:試行錯誤の日々です。
Sean:なるほど。その中にベストなやり方を探ろうとしていて、びっくりしたこととかあったりします?ああ、こういう環境がよりベターなんだとか、そういうことあったりしましたか?
三浦:そうですね。びっくりしたのはやっぱり増えないことに最初びっくりして。単に私の知識がなかっただけなんですけど。ハツカネズミじゃないですけど、げっ歯類なので、増えやすいだろうと思ったんですよね。そしたら飼い始めてから1年半ぐらい誰も出産しなかったので、えぇって。もうこんなことあるのかって思ったんですけどね。でも、やっぱりいろいろな方法を本当にちょこちょこ変えて試してみていいかどうか考えてっていう感じですよね。何が一番大きく影響したかっていうところはなくて、やっぱりその世話の方法とか、あと新しいコロニー作るときにお見合いさせるんですけど、そのお見合いの方法とか。
Sean:そのお見合い方法って何があるんですか?
三浦:ちょっと相性の良さを見分けるような、行動を見ながらですね。そういうのもあってですね。
Sean:この人とこの人だったら……。
三浦:そうそう、いいかどうかっていうのを。やっぱり最初はただただ一緒にしてて、マウスだったら普通にオスとメスをペアにしたら大体うまくいくことが多いんですけど、デバネズミの場合はただの同居人と化してしまうんですね。
Sean:なるほど。
三浦:だから同居人がいっぱいできちゃって、全然産まないっていう。
Sean:ロマンスに切り替えないっていう。
三浦:そうそう。やっぱりその辺とか、他にも多分色々あると思うんですけど餌とか、床じきとかですね。いろいろです。
Sean:なるほど。先ほどおっしゃっていた行動を観察して合うか合わないってどういうような行動なんですか?
三浦:今ちょっと論文書いているところで詳しくは言えないんですけど。
Sean:なるほど。まだ秘密ではあるんですけど面白いですね。
三浦:ちょっと放送はできないんですが、すいません。
Sean:ありがとうございます。
三浦:まあ相性ですね!相性が良さそうかどうか、というのを見るって感じです。
Sean:面白いですね。デバネズミ、すごい象徴的というかインパクトがあって、動物としてすごい気になってて聞きたかったんですよね。
三浦:面白いですよね。
Sean:そうですよね。その相性はどうなのかというところも、ひとつの研究対象になるという風に考えると、どのような研究をされているのかというところを少しもうちょっと詳しく教えていただけるといいかなと思ったんですけど、お願いしてもいいですか?
がん・糖尿病・アルツハイマー病になりにくい体:健康長寿のモデル動物
三浦:もちろんです。私たちが中心的にテーマとしているのは、ハダカデバネズミが健康長寿なんですよね。老い、老化に対して耐性があるという特徴があって、いろんな老化するとかかりやすくなる病気、例えばがんとか、アルツハイマー病とか、糖尿病とか、そういったものにもすごくなりにくいという特徴を持っています。哺乳類の中ではすごく珍しくて、私たちヒトと同じ哺乳類なのに、なんでハダカデバネズミは老いにくくて、そういった老化したらかかりやすくなる病気になりにくいのかというのを研究しています。
Sean:なるほど。最終的には老化に強いという部分もあるんですけど、実はたぶんいろんな生活の全般に、どの部分がそれに当てはまるのかというところを全般的に見ているので、相性が合うかどうかとかいうようなところもひとつの研究ターゲットにはなるということですよね。
三浦:結構ハダカデバネズミは健康長寿のモデル動物っていうことで最近着目されているんですけど、同時にすごく面白い研究対象なんですよ。実はアリとかハチみたいな社会性を持っている動物なんですよね。数十匹から百匹ぐらいでコロニーを作って、結構なんていうか、密集した環境でみんなで仲良く暮らすっていう種なんですよね。そういう平和な社会をつくるその社会システムってどういったもんなんだろうっていうのが研究として面白くって、そういった意味ではさっきの相性の研究とかもそうですし、最近は東大の奥山さんと一緒にハダカデバネズミの社会行動研究とか、あとは総研大(総合研究大学院大学)の沓掛さんとかですね、をやってますね、はい。
Sean:なるほど、面白いですね。その老化に強いっていうところで、元々大学院生の時に、老化に強い動物にターゲットしたいのかとか、そういうようなところがあって、デバネズミのところに行きついたという感じなのか、その辺は?
三浦:そうですね、元々着目したタイミングでは、老化もそうですけど、一番興味を持ったのは、元々私はiPS細胞の腫瘍の研究してたんですよ。iPS細胞って、iPS細胞だけじゃなくて、ES細胞も含めて、ああいう多能性がある幹細胞っていうのは、未分化な状態だと腫瘍を作る能力があるんですよね。それを研究していた関連でがんに興味を持っていて、がんにならない哺乳類がいるっていうのでびっくりして、興味を持ちました。がんだけじゃなくてその他の加齢性疾患、アルツハイマー病なり糖尿病なり、心疾患とかにもならないっていうのを聞いて、なんで同じ哺乳類なのにヒトやハツカネズミはそういった病気に老化するとかかりやすくなるけど、なんでハダカデバネズミにならないのか。
でも哺乳類だから同じシステムを基本的には、生理システムは共通点が非常に多いんですよね。遺伝子も使っている遺伝子は8割方は同じなのに、その使い方を変えるだけでそれだけの老化しにくさとか、病気にならなさっていうのが、もしかして私たちのヒトでも作り出せるのではないか。将来的にですね、という期待のもと始めたという感じですね。
ちょうど時代が、私が学位を取る少し前に、次世代シーケンサーが開発されたんですよね。これでやっぱりその新しい研究領域が大きく広がるなと思って、それまではやっぱりゲノムとか遺伝子とかの研究って、ゲノム配列が完全にじゃないですけど、よく分かっているヒトとか、マウスとか、ショウジョウバエとか限られたモデル動物を使った研究という分子生物学の研究ってそれだけが多かったんですけど、次世代シーケンサーが出てきたので、もっといろんな動物や植物や地球上に存在するいろんな種のそういう遺伝子レベルの研究がこれから爆発的に発展するだろうとは思って、そういった中で自分が何をやりたいのかって考えたら、面白い生き物の研究がしたいなと。
且つそれまでマウスとか、iPS細胞とか、腫瘍がんとかそういった研究をしてきたので、そういうバックグラウンドを生かしながら、ちょっと人にも、人の健康にも将来役立てられそうなおもろい生き物の研究がしたいということで、色々探した結果、最初、縄文杉の研究とかもしたいなとか思ってたんですけど、ちょっとそれはちょっとフィールドが違いすぎてやめといたほうがいいかな、ポスドクで死ぬかなと思ってやめて(笑)。で、色々探した結果、ハダカデバネズミを見つけて、あ、これだと思って。で、ラッキーなことにさっきお話しした、その岡ノ谷一夫先生がデバネズミを飼ってらっしゃって、本当に初対面でいきなりメールを送ったんですけど、会いに来てくださいって言ってくださって。岡ノ谷先生はもうハダカデバネズミの研究をちょうどストップする気だったんですよね。なので、もう1年間飼育の修業をしたあとに、あなたにハダカデバネズミを譲りますって。だからどっか持っていって、頑張って研究しろっていう。
Sean:すごいですね。もう完全に全部パスされたっていう。
三浦:パスですね。本当は岡ノ谷研のポスドクになれないかなって思ってたんですけど。
Sean:すごいですね。
三浦:そうですね、それで、えーっ!て。やめること当然知らなかったのでびっくりしたんですけど、その30匹を譲っていただいて、引き継ぐことになったので、それでiPS研究で以前からお世話になっていた岡野栄之先生、慶應にいらっしゃる先生にお願いして、ちょっとラボの隅っこで30匹飼っていいよというお許しをいただき、本当に皆様のおかげで発進をさせていただけたという感じで。
Sean:すごいですね。
三浦:よかったですね、始められて。
Sean:そうですね。でもいい意味で結構重いことをさせられてて、これを続けてくれっていう。デバネズミを使って、このラインの研究はあなたにもうお任せしますというのが、責任感が多そうな。聞いて、そういう印象を受けたんですけど。
三浦:そう、やっぱり最初はちょっと、そういう意味ではすごい緊張してましたね。飼育の立ち上げとかも、もちろん1年間修業させていただいた後だったんですけど、やっぱり慶應の方で立ち上げて、最初うまくいくかどうかも分からなかったので。でも、いろんな人に支えていただいてですね、当時飼育員として一緒に頑張ってくれた新井さんとか。もうめちゃくちゃ頑張ってくれて、なんとか。
Sean:すごいですね。でも結構今まで、がんの研究、腫瘍の研究、iPS細胞の研究、ES細胞の研究から、実際デバネズミって、そんなちっちゃくないんですよね?
三浦:ちっちゃいですよ。
Sean:これぐらいのサイズ?
三浦:マウスと同じぐらいの。
Sean:なるほど。でも今のラボだと1000匹も。
三浦:1800匹ぐらいいますね。
Sean:1800匹も!!結構その細胞系の研究から、こんな大量の動物での研究、そこはどうですか?結構シフトして……。
三浦:でも元々、細胞とマウス両方やってたので。
Sean:なるほど。じゃあそれはマウス……。
三浦:腫瘍研究、がん研究っていう意味ではマウスを使った研究もするんで。そういう意味では、はい。
争わない共同体が支える、ハダカデバネズミの強さ
Sean:ありがとうございます。社会性の話もあったかな?というふうに思ってて、哺乳類の中で、結構ユニークな社会性を持っている動物じゃないですか。どれぐらいそれがその老化に強い話と直接つながっているのかっていう所があると思われます?
三浦:それは結構面白いなと思って最近すごい興味持ってるんですけど。やっぱり社会をもって集団で生きていることっていうのが、何かしら健康長寿の進化とか、ないしは進化的な意味だけじゃなくて、みんなで一緒に過ごしていることがいいこと、健康長寿にとっていい役割をいろいろしてるんじゃないかなとは思っています。それは何か物理的な因子のやり取りっていうこともあるかもしれないですし、もしくは精神面というところもあるかもしれないですし、そこは結構興味を持っていて、今後広げていきたいなと思っています。
Sean:いいですね。いや、すごい面白いなと思って。すごい独特な環境で、独特の文化で、ほかのネズミと比べて全然違うから、何かそのインパクトが見えてくると、すごいですよね。
三浦:あとやっぱり、単独で生きている動物と違って、そういう協力的な社会を発達させているので、その社会の集団の中での争いっていうのはもうかなり非常に少ないんですよ。すごく平和な社会をつくっているので、そういう意味ではみんなで生き、だから要は、周りに仲間がいることによる、ストレスは小さい。おそらく。逆に多分いろいろ恩恵を受けてるんじゃないかなと思っていて、もしかしたらそういうところから、ヒトの方にもヒトの社会があって、みんなで助け合って暮らしてるじゃないですか。それの良さをもう一度、物理的に健康長寿にこんないいことが、みたいなとこに何かつながらないかなとか勝手に妄想しているんですけど。今は何もまだそんなことやってないので、単なる妄想です。
Sean:でも自分、個人的にはありそうだなと思って。
三浦:いや、そうだと思いますね。孤独はやっぱりタバコを吸うより健康に悪いっていう話もありますので、はい。
Sean:そうですよね。そのハダカデバネズミが持っているその社会、ユニークな社会性、なぜそれが持ってるのかとか、それがどこから出てきたのかっていうところが明確になってますか?
三浦:それはそうですね、進化的な観点で言われていることなんですけど、ハダカデバネズミが住んでいるところって、サバンナの結構乾燥したところの地下なんですね。で、かなり広い領域にポツンポツンと点在している植物の根とかイモが生えてるのを探して、地下でアリの巣みたいなトンネルの穴を掘りまくって、全長3キロぐらいの巣を作って、その中で少ないエサを探しまくって食べるっていう生活をしています。いい点は敵が少ないんですよ。地下だし、掘るの大変だし、エサも少ないから、敵は敵となるほかの種は全然ほとんど入ってこない。いい点は平和なんです。だから敵が少なくて。だけど悪い点は、エサを集めるのに、めちゃくちゃコストがかかる環境なんですよね。なので1人じゃもうエサを集めて子どもを育てるなんて絶対無理なので、社会性を作るか、っていうふうに言われています。
Sean:なるほど。
三浦:貧乏、平和な環境に適応してっていう種なんですけどね。それでも多分、その環境に適応する過程で、彼らの健康長寿能力も形成されたと予想されているんですよね。そこの関連もやっぱり考察するのも非常に面白いですね。
Sean:でもその話を聞くと、勝手に想像したのが、めっちゃ頑張って少ないエサなんだけど、それを探しに行って、メインのところに持って帰ってシェアするっていう。
三浦:そうです、シェアしてます。餌を運びます。
Sean:どういう風にシェアするんですか?なんか誰がどれぐらい食べられるのかとか、ルールがあったりするとか。
三浦:多分そんなに明確には、はっきりとしたルールはないんですけど、とりあえず(餌を)取りに行って、トンネルの中を走っていって、餌をかじって口で咥えて運んできます。みんなが寝ているネストっていう部屋があるんですけど、その部屋の周りに運んできたエサをため込むという習性があるんですよね。それでため込んだ餌をみんなで食べるっていう生活をしてますね。
Sean:勝手に集合してるから、晩ご飯よーみたいな感じで同じタイミングで食べるのか、みんなそれぞれ食べるのか、その辺はいかがですか?
三浦:そうですね、飼育しているときに餌をあげたら、みんなやっぱり食べにきますけど、でも運んでいってネストでためてる餌っていうのはそれぞれみんな好きな時に多分。お腹すいたわ、芋食うかみたいな感じで。
Sean:でもそこで喧嘩が起きない。それは私がため込んだ芋だからとか。
三浦:そうですね、あんまり起きないと思います。
Sean:すごいですね。平和に、もちろん依存し合う必要性があるっていうようなところもあるかと思うんですけど、なんで喧嘩が起きないのか不思議ですね。
三浦:不思議ですよね。そういう意味では、脳神経の研究のほうでも面白い研究対象ですよね。
サザエさんの時代より若い現代人?老いの概念をアップデートする
Sean:なるほど。そういう意味だと、今いろんな角度で研究をされているかと思うんですけど、自分でもここすごいぞって思うところは、ぜひお聞きしたいんですけど、なんか最近自分でもびっくりしたとか感動したとか、やっぱりこれすごいなとか思うものってあります?
三浦:そうですね、結構いろいろあるんですけど、逆にいろいろあるのがすごいというか。健康長寿を制御している因子なり、システムっていうのが1個じゃないんですよね。DNAゲノムレベルから、RNAレベルからタンパク質レベル、細胞でも。例えば、老化した細胞とかをうまく殺して除去するようなメカニズムが備わってたり、ゲノムの話でいけば、DNAの傷を治す力が高かったり、体の組織のレベルでいくと、過剰な要らない炎症を起こすことをあんまりしないようなシステムになってたりとかですね。こう結構、あの手この手で健康長寿を制御するように持っていってるというのが分かってきたのが、いや、すごいなと。
Sean:すごいですね。多分、もともと研究対象を考えたときに、人の健康につながるようなことをしたいとか、それを更新したいというところだったので、結構そこが……。
三浦:そうですね。なので逆にそのハダカデバネズミが持っている、主要な仕組みとかをいくつかピックアップして、それを例えば、マウスで再現してみたりとかしたときに、どれぐらい健康長寿を再現できるのかというのは、これから必ずやりたいことですね。もちろん完全にっていうのは難しいでしょうけど、一部だけでもできるといいなと思っています。
Sean:今の研究内容を最終的に人間に当てはめて、人間が200年、300年生きるみたいな接続は、そのうち出てくるかな。
三浦:そうですね、あり得ると思います。どちらかというと私、寿命を延ばすことはあんまり、そんなに興味がなかったりするんですけど、でも結果としてそれはあり得るかもしれない。ただ、私の希望としてはどちらかというと、単に寿命を流す、長くするっていうよりは、それって結構、文化的文明社会として、いろんな問題も出てくると思うんですよね。なので、どちらかというと健康寿命を延ばしたいっていうのが先に立っていて、医学的な観点とか、あと社会の維持という観点でもですね。
Sean:なるほど。
三浦:なのでみんながピンピンコロリで、やっぱり死ぬ前の最後の10年間に、いろいろな病気が出てきたりとか、あと、そういう介護の問題とか、ご本人もご家族もQOLが低下する最後の10年なんですよね。そこをなるべく元気な状態を保ってピンピンコロリにするっていうような技術を開発したいなと思っています。でもその結果として、寿命がもっと延びて、例えば150年とか200年とかいうのは、結果として出現する可能性もあるんですけど、それはそれで。
Sean:でも、ちょっと思ったのが、人間がこう300年生きるようにして、それに対してちょっともしかして社会的な問題が起きる、そこも、もしかしてデバちゃんから学びがあるのかな?平和とか。
三浦:そうですね。だから例えば200年、300年まで生きると考えた場合に、社会として、要は老人が増えてしまう、年を取った方が増えてしまうというふうにみんな想像するんですけど、そのときには若い時間もすごく長くなっているかもしれないですよね。
Sean:そうですね。
三浦:今みたいに、例えば40歳から60歳が中年期で、ですかね?まだ60歳、65歳以降が…みたいな考え方じゃなくて、100歳以降が中年期みたいな感じの、年の取り方の概念そのものが変わる可能性は、あったらあるかもしれないですよね。
Sean:なるほど。
三浦:今も若いんですよ。昔のサザエさんっていう漫画があるんですけど、サザエさんの頃の波平さんの年齢と、すみません、ちょっとはっきりした年齢を忘れたんですけど、50何歳なんですけど、あのときの50何歳の波平さんと、今の70歳ぐらいの人が、生物学的な年齢としては同等だという考え方もある。だから昔の50歳の人が今70歳ぐらいなんですよ。老化がすでにもう遅くなっているので、そういう意味では、みんなの考え方もちょっと考え変えていかないといけないですよね。
Sean:そうですよね。めっちゃ面白いですね。ハダカデバネズミ、その社会の中には、同じような年齢によって、社会の役割が変わるのかとかいうことってあったりします?
三浦:それもマイルドな変化はありますね。
Sean:あるんですね。
三浦:あります、はい。ハダカデバネズミのワーカーっていうんですけど、ワーカーって、アリやハチみたいに明確な分業はないんですよ。なんですけど、やっぱりすごく穴を掘るのが、より穴を掘りに行くワーカーとか、ソルジャー的な敵と戦いに行く役割の割合が多いワーカーとかですね。ちょっと緩やかに変化があって。そういう意味で、そこに体の大きさとか、年齢とかも少し影響しています。
Sean:なるほど。デバちゃんは40年、最大40年で、結構最後まで健康であるということもあるんですよね?
三浦:はい、そうです。
Sean:最後まで元気に。それだったら、そもそもなんで死ぬ?
三浦:いや、それめちゃめちゃ重要な一番大事なんですけど、結論から言うと、まだよく分かっていない。一番今分かっていることとして多い死因、死ぬ理由っていうのは事故とか怪我とか、あとは日和見感染とかですね。ちょっと体調を崩して死んでしまう。でもそれは若い時でも年取った時でも起こるので、老化による死ではないんです。どれも。なので、例えば、一番の個体の体の老化の指標って、年を取るほどに死にやすくなること、死亡率がどんどん指数関数的に上がっていくのが、老化の大きな指標なんですけど、デバネズミではそれが起こらないっていうのは分かっていて、常に同じような、けがとか事故とか、日和見感染的な理由でたまに死ぬんですけど、その割合はずっと一定っていうことですね。じゃあそれを運良く、偶発的な怪我も事故も日和見感染も全部免れたとして、デバが最終的になんで死ぬのかっていうのは、まだわかってない。
Sean:なるほど、面白いですね。
三浦:それが知りたくて、あの獣医の病理の先生と一緒に、デバが亡くなったときには、ずっと死因解析をしてるんですけど。いかんせんうちのデバはまだ最高齢23歳なので、まだまだちょっと。
Sean:まだまだですね。
三浦:まだあと10年後か15年後か。定年するまでには彼と一緒に論文を書こうという、息の長いプロジェクト。
Sean:でもそうですよね。
三浦:デバネズミ研究者は気が長いので。こういった研究も大事ということですね。
Sean:そうですよね。ずっと付き合わなければならないというか、それはすごい面白いですね。そう思ったのが、研究環境で育てられているデバちゃんは、あんまり危険とか事故とかに遭わないことになるので、どんどんそれによって長く生きることになるのかなと思ったら、でも多分それでもなくて。
三浦:そうですね、どっかではやっぱり、はい。でも40年っていうのも伸びていってはいるんですよ。そうなんです。私が研究を始めた2010年には、最大寿命が最も長く生きたデバは28年と言われてたんですけど、それが今40年までいってるので。だから多分そんなにそこから大きく伸びることはないんだろうと思ってるんですけど、ちょっとまだ伸びる可能性はあります。
Sean:そのプラス12年の原因は?
三浦:いや、その答えが死んでなかったからこう……。
Sean:なるほど。
三浦:12年間でこう年を取ったっていう。
Sean:すごいですね。でもそうすると、多分いろんな角度でいろんな研究をされているっていうことが続くと思うんですけど、年齢に伴って将来的にどうなっていくのかというのが、デバちゃんと一緒に年をとっていかないといけないっていうすごい冒険っていうか、そこもすごい面白いなと。
三浦:面白いですよね。確かにその一緒に研究を始めた頃に、8歳だったデバが今23歳ですよね。
Sean:はい。すごいですね。これからどうなっていくのかって見れないっていうのがめっちゃ面白い。
三浦:面白いですよね。だからさっきの話でいくと、そういう社会の中にいろんな年齢の個体がいて、それが混じり合ってっていうのが、その社会性の構築として、どういういい役割を持っているのかとか、プラスでそのそれぞれの個体の健康とか、寿命長寿とか、健康長寿にどういういい役割があるのかっていうのを考えるのも楽しいです。
Sean:楽しいですね。すごいですね。
三浦:絶対いいことあると思うんですけどね。まだ妄想ですが。
「共に生きる」ことが体に与える影響
Sean:いや、でも結構そこがさまざまな観点で、人間中心のどうかっていうところもあると思うんですけど、健康っていうところもあれば、社会性っていうところもあって、先ほどのお話で、健康寿命をなるべく延ばしたいっていうモチベーションで研究されるっていうところがあったんですけど、この研究、今の研究が進んでいって、どういうようなことが実現できるのかなとかいう、多分いろんな角度があって、楽しみにしているという言い方じゃおかしいですけど、結構いろいろ生まれてそうで、面白いなと思ってて。
三浦:そうですよね。でもやっぱり体も心も健康長寿になるのがいいですよね。
Sean:そうですね。
三浦:そういう意味では、社会システムっていうのもやっぱり変わっていかないといけないと思うんですよね。どうもやっぱり進化してきて作られてきた私たちの体というか、要は遺伝的に決まっているシステムっていうのが、今のちょっと現代社会に対応しきれてないところもいろいろあるじゃないですか。
Sean:そうですね。
三浦:だからそういう意味で、その社会のほうももう少しやっぱりちょっと柔軟に変えていかないといけない部分があると思うんですよね。そういうのにもヒントにならないかなっていうのは常々。
Sean:そうですよね。この200年ぐらいで、多分人間が毎日送っているような生活が180度変わってるっていう。全然違う世界になっていて、我々の体もそうだし、脳もそうだし、多分社会性がどういうふうにアップデートしていくか、我々の生活とその本能の部分を更新しているスピードが全然違うっていうところで。こういうところで研究の結果とか、発見というものをどういうふうに当てはめられるのかな、とかいうことをちょっと想像してしまうんですけど、何かイメージあります?この進化させる方法として、何があるんだろう?
三浦:そうですね。進化させる、何か社会の仕組みとか、家族の在り方とか、人と人との、それこそSS-Fで目指されているようなことにもすごく合致すると、人と人とがどうどれぐらいの距離でどうつながるべきかみたいなところに、何かしらのひとつのヒントになるかもしれないですよね。それこそ若者も重要だけれども、でも高齢の方々の深い見識も大事であって、このいいバランス、私は何でも「ちょうどええ塩梅が」って言うんですけど。(ええ)塩梅の社会システムにしたって、便利だけを追求しない方がいいかもしれないけど、やっぱり便利がいいじゃないですか。つながり方も塩梅が大事で、それに何かヒントがあったらいいですね。
Sean:そうですよね。あと、日本はもう今の人口の傾向ってあって、この20年ぐらいで60歳以上の人たちの割合がすごい大きくなったりするっていうふうに考えると、社会をどう構造していくのか、どうつながるのか、どう寄り添うのかというところは考えないといけなくて、ヒントになると。もしかしてそこが……。
三浦:若者とそういうお年寄りの方が恒常的に混じり合うのが大事じゃないかなって思います。その機会がめちゃくちゃ減っちゃってますよね。そういう意味では、例えば子どもを育てている人と、今育てていない人が恒常的に混じり合うような社会が多分。昔はそれが達成されてたんですよね。それ今すごくなくなっちゃってて、多分そこをみんなお互いに経験できないから、いろんな形で分断が生まれてしまうから、そこをシステムとして混じり合わせるっていう社会をつくっていくのがいいんじゃないかなっていう気がしますよね。
Sean:そうですね。しかもデバちゃんと違ってて、我々人間として意図的に社会を実は変えられる、その能力を持っているからっていうところで、自然界からヒントとか学びを使って
三浦:そうですね。そう、我々は変えられるので。
Sean:そうですよね。なんかそういう意味だと、この健康寿命の中に肉体的な健康と、心的な健康というところで、三浦さんがフォーカスしたい体のほうなのか、心のほうなのか、割合的には50:50なのか。
三浦:そうですね、基本的には体の健康ですね。体の健康なんですけど、ただそういう社会システム、今デバネズミの話なんですけど、デバネズミの社会システムに支えられる体の健康っていうのは多分あるだろうと思っていて、そこはちょっと今後をテーマとしてみたいですね。宇宙も大好きですけど。
宇宙で人の健康を守るには。デバネズミ研究の新たな可能性
Sean:そう、宇宙の話もしたいなと思ってて。
三浦:宇宙も大好きですけど。
Sean:次はちょっと宇宙に挑戦したいっていう。
三浦:そうですね、ちょっと興味ありますね。
Sean:ぜひ、それを聞きたいです。どういうようなところに挑戦したいのかとか何で宇宙なのかとか。
三浦:あの、宇宙に進出するときって、やっぱり人の体の健康維持がめちゃくちゃ重要なんですよね。無重力状態にやっぱり長く置かれると、ダメージすごいじゃないですか。あとはその宇宙の放射線によるダメージとかもすごいので、そういったところの防御に、ハダカデバネズミの体の放射線の耐性の仕組みとかですね。恐らく多分、そういう骨粗しょう症とか、そういう筋萎縮とかでも耐性があると思うので、そういった、その宇宙とデバネズミみたいな研究は、単に私が宇宙が好きなだけなんですけど。興味があってまた今後落ち着いたら、少し落ち着いたら、ちょっと考えたいなと思って。
Sean:いいですね。でもそこは結構、これから国によって多分宇宙に対してどれぐらいフォーカスしているのかというところは、いろいろ変わっている部分がある気がするんですけど、たぶん次のフロンティアとして宇宙に行くっていうところがあるって考えると、やっぱりそのデバちゃんの強みとかいうことを分析して、そこから学びがあって絶対使えるなと思ってて。
三浦:あると思いますね。そこがやってみたいなっていう。単に宇宙が好きなだけなんですけど(笑)。
Sean:ここでちょっとだけお話を違う方向で、ちょっと話として出てきたと思うんですけど、是非、三浦さんが研究者になろうとしているとか、研究のどこが好きなのかという、もうちょっとこう、自分と研究の関係性についてちょっといろいろ聞かせていただきたいと思ってるんですけど。もともと結構健康寿命を延ばしたいとか、なんで人が病気になるのかというところで、人間の健康に貢献したいっていうお話があったんですけど、もともとそういう、そうしたいなと思ったきっかけなのかとか、何かあったらお聞きしたいなと思うんですけど、いかがですか?
三浦:そうですよね、きっかけ……。
Sean:三浦さんをゲストにお迎えしてお届けしているエピソードの前編はここまで。いかがだったでしょうか。個人的には、三浦さんがハダカデバネズミの体の中の耐性っていうことだけじゃなくて、社会性っていうところから多くの学びがあるのではないかという全体的な観点で考えているところが、特にワクワクしました。
後編では、なぜ三浦さんが研究者になろうと思ったのか、研究の世界へ飛び込んでいった原点、そして現在の研究にかける熱い思いまで、深く探っていきたいと思いますので、後編もぜひチェックしてみてください。
Stellar Lab Radio.
まだ誰も知らない世界を変える研究について、ホストはStellar Science FoundationのSean McKelveyでした。
See you soon on Stellar Lab Radio.
Stellar Lab Radio、まだ誰も知らない世界を変える研究について。
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